42話 区画主との遭遇
2019-02-01 新設定に基づく計算間違い発覚したので文章を修正
2020-05-04 誤字修正
炎に包まれた超巨大黒蟲が僕らに迫る。
だが襲われる事はなかった。
燃え盛る超巨大黒蟲が真っ二つになって目の前に墜落した。不快な臭いを発しつついまだ燃えている。
手出しはしないと言っていた師匠が放った無詠唱の【魔力斬】によって切断されたようだ。
「何のために剣を持っている。黒蟲はデカイとはいえ重量は軽い。叩き落とせよ」
そう師匠に怒られてしまった。
いやいや、炎に包まれた巨大な黒蟲とか別の意味で怖いですって! そう思ったがあえて反論はしなかった。
その後は和花が投石紐で投擲し撃墜できなかったものを僕が切り伏せるという作業が続いた。
まるでゲームのレベリングかレア狙いの為の雑魚狩りでもしてる気分だ…………。
こういう終着点の分かりにくい反復作業みたいなのは苦手なんだよね。
結局八半刻ほど黒蟲を叩き斬る作業に従事した結果————。
「万能素子結晶が結構採れたね。これでどれくらいの買い取り額なんだろう?」
嫌な顔一つせずに黒蟲を解体して回収役を務めた隼人が妙にウキウキとして売却益を気にしている。
「多くの万能素子結晶が大黒蟲のモノで一番買取の安いものになるが数だけは多い。大黒蟲15匹、巨大黒蟲8匹、超巨大黒蟲1匹で、ざっと見て大銀貨4枚ちょっとだな…………220ガルドってところか?」
師匠がザックリとした計算額を伝えてくれる。
「5人で分けても結構おいしい額じゃね? 普段からこの程度で稼げるなら楽勝じゃねーか」
そう言ったのは重武装である意味安全な健司だ。
「運悪く下水に落水しなければな。あと黒蟲目当てだと病原菌を貰うこともある。治療費は半端ない額をかかるんで注意することだ。それに————」
そういって師匠は超巨大黒蟲の死骸を指差し、
「超巨大サイズ相手だと流石に食われるぞ。生きたまま食われるのは地獄だぞ」
「そんなもんですかねぇ?」
師匠の忠告もいまいち実感が持てないらしい。確かに先ほどの戦闘では無双状態ではあった。
「そんな事より体液が口や目に入ったりしてないよな? 病気になると治療費で軽く見積もっても金貨7枚は取られるぞ」
とりあえず4人とも確認するが誰も粘膜接触はないようだ。
だが僕を含む直接切り結んだ男三人は返り血ならぬ返り体液でかなり汚れている。
「これだけは何とかしてーなー」
「そんな時こそ生活魔術の【洗濯】だ」
健司のボヤキに師匠がそう答える。だが師匠が【洗濯】を使ってくれるわけではないようだ。
「あ、やっぱ僕ですか?」
そうだろうなーと思いつつ一応師匠に確認を取ると「あたりまえだろ」と返ってきた。
「綴る。生活。第二階梯。減の位。撒戻。浄化。清浄。除菌。乾燥。対象。拡大。発動。洗濯」
呪印をきり呪句を唱えて魔術を完成させる。目標となるのは僕、健司、隼人の三人だ。
一瞬全身が光に包まれ、それが消えるころには全身の汚れなどがきれいに落ちまるで洗い立ての様になっていた。僕の力量だとまだ結構負担が大きいんだよね。
「やっぱすげーわ。いざとなったら樹と小鳥遊の生活魔術で食っていけるんじゃねーの?」
素養の関係で魔術が使えない健司がベタ褒めしてくれるが、一日に使える数は限られているんだよ…………。今の僕らだと二人合わせても倒れるまで使ったとして20回も発動できれば上出来だろう。一回につき金貨1枚取れるので確かに冒険者をやるより儲かるな。ただ魔術には失敗する確率というのが存在する。人間は中々機械のように同じことを寸分違わず繰り返すのは難しい。もっともその金額を出す冒険者がどれだけいるのかって話である。
だけど褒められることは悪くはない。
古典ラノベの主人公賛美を見ていると彼らは文化レベルも低く、教養もなく、みな純粋なので素直に褒めてるんだなって気がする。どっかの偉い人が言っていた『知らない事は幸せだ』『庶民は無知である事が望ましい』とこの世界の住人はそれなりに教養もあり精神も成熟しているから褒められまくっても裏が透けて見えて気持ち悪いけどね。
「この後はどうする? まだ先に進んでみるか?」
今日は妙に積極的な隼人がどうするか聞いてくるのでちょっと思案する。そこへ————。
「超巨大黒蟲が居たって事は近くに区画主が居るかもしれない」
どうするかと思案し始めたところに師匠が忠告が耳に入ってきた。
また見事なまでにゲームっぽい存在がいるもんだ。
この迷宮を作った奴は僕らと似たような存在だったのではなかろうか?
区画主は特定の部屋にいるとかなんだろうか?
師匠に確認してみよう。
「変異性超巨大黒蟲は体長1.5サート程の巨体に取り巻きで超巨大黒蟲を数匹連れ歩いている。特定の部屋にいるのではなく下水区画を徘徊しているから注意が必要だ」
質問に対して師匠の回答がそれだった。
しかし体長1.5サートとか恐怖しかないな。
「注意って?」
「対策を講じてないと狩られる冒険者も多い。討伐できれば手に入る万能素子結晶は大きく高価だが、ベテランは狙わない。何故なら————」
隼人の質問に師匠が答えるのだが、不意に言葉を切る。
「見た方が早そうだ」
師匠が指差した先には追われている冒険者達の持つ松明の明かりに照らされて巨大な黒蟲が映っていた。
「た、助けてくれ!」
僕らの存在に気が付いた冒険者たちが助けを求めてきている。彼我の距離は10サートほどだ。
判断を誤り、対応が遅れれば一瞬で僕らも巻き込まれる。地形的にも人数を展開させて戦闘は出来ない。
チラリと師匠を見るが、答える気はないようだ。
見知らぬ他人とは言え同業者を見捨てる?
いや、いける!
「健司、隼人頼む!」
もう冒険者達は目前まで来ているし言わなくても通じていると信じたい。
「へいへい」
「了解。貸しひとつだぞ」
健司と隼人は察してくれたようで、返事と共にそれぞれ武器を握りなおす。
左にいる和花にもと振り向くと————。
「綴る。付与。第一階梯。付の位。威力。強靭。貫通。対象。拡大。発動。威力強化」
既に呪文の詠唱に入っていた。完成した【威力強化】の魔術は健司の三日月斧と隼人の小剣を青白い魔力の光が包み込む。
攻撃面はそれでいい。
なら僕が唱えるのは————
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