401話 決闘?
僕らの進路を塞ぐ形で立つ集団から一人進むと男がこう口にした。
「【天位】たる貴様に決闘を申し込む!」
その人物はやや奇妙な格好をした人物であった。これ見よがしに磨かれた板金鎧はまだいいとして腰に佩いた大小の太刀だ。
そう打刀ではなく太刀なのである。それも大太刀と呼ばれる刃渡り37.5サルトほどあるやつである。
打刀を広めたのは僕らとは別世界の日本人らであり、そのころは幕末だったらしく打刀はあれど太刀の方は……。出所が気になる。
それはそうと果たしてあの状態で抜刀できるのであろうか?
しかし【天位】の称号を賜った際のデメリットがこの名を上げるために決闘を申し込む手合いが沸くことであるが、まさか賜ったその日のうちに絡まれるとはついてない。
特権扱いとなっている決闘権があるので街中で刃物沙汰になっても咎められることはないのだけど……。とりあえず拒否する事にした。
「生憎だけど得物がないので後日にしてもらえるかな?」
一応だけど護身用にと腰に光剣は提げている。だけどこいつの威力は木刀よりマシ程度なんだよねぇ。
「貴様の腰のソレは飾りか!」
取り巻きらしい後ろの男たちが「飾りか!」と騒ぎ立てる。煽ってるつもりなのだろう。
「飾りだよ」
そう言ってやった。すると板金鎧の男はさも驚いたかのように「【天位】を賜るほどの武人がなんと嘆かわしい……」
と大声で叫びさらに調子に乗った取り巻きが「嘆かわしい」と連呼する。正直言ってウザい。
眉庇で顔を隠してる奴に言われたくないなぁ。
外野が騒ぎ立てる事もあり道行く人々も足を止めて成り行きを見守っている。お断りしにくい。仕方ない……。
察した瑞穂が左腰に提げている小剣を鞘ごと外すと差し出してきた。いま提げている光剣は低威力の護身用なので板金鎧相手だと相性が悪いのである。
僕は首を振ると断った。瑞穂も何も言わずに小剣を左腰に提げる。
「気持ちはありがたいけど、それはオーバーキルだから駄目だよ」
瑞穂の気遣いはありがたいが、[鋭い刃]はマズい。あの程度の板金鎧であれば紙を引き裂くように切り裂いてしまう。
借り物の武器で勝ってもいちゃもん付けられるだけだろうし手持ちの光剣で応じようと思う。
「で、決着はどうする?」
取り決めをしておかないと後々揉める要因だ。高位審議官の前で宣言してもらおう。ククク……。
「戦闘不能か降参としよう」
板金鎧の男は眉庇を上げながらそう答えた。磨き抜かれた最新式の関節隙間がほとんどない板金鎧に数多くの取り巻きを従え持ってる得物は高価な太刀なので貴族の子息かと思ったけど予想通りである。
取り巻きの一人が近づき大太刀の鞘を引き抜いていく。抜き終わると板金鎧の男は眉庇を下げ大太刀を両手で正眼に構える。
構えで分かった。この男は完全に色物枠だ。恐らくだが本命が何処かで観察しているはずである。僕は小声で瑞穂に周囲を探るように伝えると光剣を抜き刀身を出現させる。
片手用なので左足を引きやや半身となり刀身を下げ変形の下段の構えを取る。
まずは一手様子を見てから考えようと思ったのだ。
「開始の合図は?」
僕がそう問うのだけど答えはなく大太刀を振り上げ無造作に飛び掛かってきたのだ。
振り下ろしに対して下から突き上げるような一撃で刃の軌道をそらし僕はさらに一歩踏み込む。男の右腕が僕の胴体に阻まれるのでこの状態から斬られることはない。
突きあげた光剣を手首の角度を変え柄頭を眉庇に叩きつける。
これが有効打になるとは考えていないが大して厚くない装甲が歪み相手の視界を歪める。
相手の右側から回り込むように移動しつつ男の軸足の膝裏に下段蹴りを入れる。ガクリとバランスを崩し転倒する際に間合いを取る。
追撃も考えたが最新式の板金鎧に対して弱点を自分なりに検証してみたくなったのだ。
外野から笑いが起こる。
板金鎧の男が立ち上がるのを待つ。最新式の板金鎧は重量があるが特注品で身体にフィットするように作られているため意外と重さが感じなく予想以上に素早く立ち上がった。
そこからは一方的であった。
男が斬りかかるのを僕が【刀撥】で受流し返す刃で三連撃で関節部だけを的確に叩きつけると意図的に間合いを取り仕切りなおす。
程なくして予想通りの結果がでた。
最新式の板金鎧の弱点である関節部の機構が歪んで可動範囲が著しく狭くなったのだ。
思うように動けない事で表情は見えないが激高しているのがよく分かる。可動範囲を制限され奇妙な動きをする男を事情の知らない外野が嘲笑する。
そろそろ諦めてくれると良いだけどなぁ……。
僕も救いようがないんだけど、人を斬るのは忌避感を感じるくせに戦いの高揚感は心地よく感じるんだよねぇ。ただ今回の決闘は高揚感もなく嫌々こなしている作業のようである。
僕は作業を終わらせるべく刀身に体内保有万能素子を集約させていく。魔戦技の【練気斬】である。
男は起き上がり大太刀を構える。根性だけはあるようだ。意外と鍛えたら化けるかもしれない。
構えたのを確認した後に【八間】による飛び込みからの刺突技である【雷槍】を喉元に叩き込む。
喉当てが大きく歪むほどの一撃に派手に吹き飛び路面に叩きつけられる。歪んだ喉当てが喉を圧迫し男が藻掻いているのを僕は静止して見守る。
茶番は終わりかな。
僕はアルマと瑞穂を促し帰路に就く。とりあえず絡まれるウザいから早く何処かに旅立ちたい。
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