400話 お礼と挨拶回り③
健司の流れるような土下座はそれは見事なものであった。
呪ってやると言わんばかりであった和花も毒気が抜かれたのか苦笑いしつつ許してしまったほどである。
事務仕事が残っている和花と冒険者組合に使いと化している健司とはここで別れる。
健司の奴は担当職員のサフランさんを口説くために何かと理由をつけて出向いているのである。
あいつ他にも付き合っている女性が三人いるんだけど刺されないといいんだけどねぇ。ゲームじゃあるまいし防御力高いから攻撃が通らないなんてことはないのだし。
その後はアルマの案内で敷地内の新しく共同体に加入した面々やその家族に挨拶回りを行った。すでに運搬業務を始めているとの事で一部の面子とは後日に顔合わせとなる。
一晩明けて基本的な鍛錬で身体の鈍り具合を実感しつつ今後の訓練内容を検討しアルマと瑞穂を伴ってお世話になった各所へと復帰の報告とお礼回りへと出かける。
始祖神の神殿に挨拶し次に僕らの出資者でもある商業の神の神殿に活動再開の挨拶を行うと、次の遺跡探索は何時ですかねと催促される。
一応次回の探索行の計画はあるとだけ伝えて去る。
昼食を挟んで法の神の神殿に挨拶に行くと命を粗末にするなと説教をされる。正直に言うと僕も何故あのような心境だったのか理解できない。雰囲気に酔っていたのだろうか?
例の件を念を押されたのを苦笑いで善処すると流し本日の本命の武の神の神殿へと向かう。
【天位】の称号を賜ることに躊躇いがあった。受ければ余計なトラブルを引き込むからだ。だが共同体が大きくなってしまったので肩書は多いほうが組織としては良かろうと判断したのだ。
私人としての都合より公人としての立場を取ったのである。思うようにならないものである。
戦士として優れた技量を持った者へ与えられる称号であるが明確な基準も絶対的な強さを保証するものですらない。称号を賜ることは名誉だと考えられている反面、存在を知られていない者や称号を希望しない者もおり、天位でなくても天位を超える能力を持つ者も数多く存在する。例えば師匠とかだ。
武の神の神殿に到着するといかにも武人だと言わんばかりにゴツイ神官戦士に称号を賜る際の話を説明を受ける。とくに宗教的な厳かな儀式などはなく総大主教から【天位】の証である[天位の証]という銘の入った儀式用短剣を賜る。その際に一刻ほど正しき武人の在り方なる説法を受ける。
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「疲れた……」
夕方になり武の神の神殿を辞した僕の第一声である。
「お疲れ様でした」
心底疲れたという僕に対してアルマが労いの言葉をかけてくれる。そしてこう続けた。
「信者でもなければ大半の人は精神的苦痛ですよね」
と朗らかに笑う。
「聖職者がそれでいいの?」
僕のその問いにアルマは、
「神殿で信者の前でそんなことを言おうものなら査問会行きでしょうね」
そう言うのであった。
南地区の大通りを三人でぶらぶらと歩きつつ四半刻ほど経過したころだろうか。
先頭を歩く瑞穂が後ろ手で手信号を出してきた。”止まれ”だ。
そいつらは僕らの進路を塞ぐ形で立っており2.5サートほどまで近寄ると先頭の男がこう口にした。
「【天位】たる貴様に決闘を申し込む!」
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年末の業務締めまで忙しく頑張っても書きかけの三話くらいで今年は終わりそうな気がする。




