399話 お礼と挨拶回り②
元大富豪の本館という事で兎に角無駄に大きい。コの字型の本館で一フロアの面積が5320スクーナ、凡そサッカーコート一面くらいあるとの事。それが三層あり他に屋根裏と地下倉庫が広さ340スクーナ、凡そダブルスのテニスコート二面ほどあるという。
ただ無駄に広くほとんどの部屋が空室となっている。高い維持費に比して無駄が多すぎるのでそこで一計を案じた。
「思ったんだけど、これって宿泊施設で営業したほうが良くない?」
「それは良いわね。そうなると……」
そう答えると和花はお仕事モードに入ってしまった。案内自体は瑞穂がやってくれるので問題ないのだけどこのまま放っておいて和花が何処かにぶつかったりしないだろうか?
置いて行くのも悪いので考えが纏まるまで大人しく待つことにすると先行する瑞穂が振り返り小首を傾げ『いかないの?』と言わんばかりであったが手で制して待つことにした。
一限ほど経過すると考えが纏まったようで足を止めていたことに気が付いたようだ。
「あ、ごめん。考えが纏まったし行こ」
そう言うと僕の手を引いて待たずに歩き出す。
アルマに与えられた部屋は館の西側の角部屋であった。
「アルマはちょっと変わっちゃったけど驚かないでね」
扉の前で立ち止まり振り返ってそう告げる。
どういうこと?
しかし問いを返す前に和花が扉をノックし返事を待たずに開けてしまう。
薄暗い部屋に居たのは床に膝をつき瞑目し両手を組み祈る不思議な髪の色の美しい女性であった。事前に聞かされていたからアルマだと分かる。これが神人族の昇格というやつか。
神人族は男女で特性が異なり女性は二次性徴が始まると途端に身体的成長が停止する。約10年ほどかけて霊的に作り替えられそれが終了すると肉体も急激に変容しそのまま老化は止まる。
先祖返りといえども例外ではなかったようで実年齢よりはるかに幼かった。ただ肉体の変容は本人の申告だと後数年は先だとの事であったが二度の【神格降臨】が何か影響したのかもとの事であった。
一枚の絵画のような静謐さに戸惑い声をかけるのを躊躇っていると空気を読んだのかアルマの方から口を開いた。
「目が覚めたようで何よりです。心身に違和感とかはありますか?」
立ち上がりこちらを見て安堵の笑みを浮かべる彼女に思わず見とれてしまっていると和花がそっと顔を寄せ小声で、
「すごい変わりようでしょ?」
と囁く。
確かに纏う雰囲気が神々しい。見た目の変化も身長が結構伸びており、推測ではあるが41.25サルトほどだろうか? 以前はこげ茶色っぽい髪は臀部まで届く白金の髪の髪へと変じて見る角度や光の加減で様々な色に見える。
彼女の象徴でもあった虹彩宝珠症にも変化があった。金と紫の瞳はより深みのある色合いに。
なんでも魔眼である[真贋の瞳]がより力を増し欲してもいないのに勝手に物事の真贋が頭に入り込んできてしまって困っているとの事であった。
「まずは、助けてくれてありがとう。それと無理はしないで欲しい」
「そうですね。お互い気をつけましょうね」
そういってニコリと返されてしまった。
「僕らの関係性は対等だと思うのだけど、借りは作りたくないので何かお礼がしたいのだけど何かない?」
対等な関係を維持するには一方が施しをする関係ではいけない。価値観の違いは仕方ないとしても何かしてもらったらこちらも何か返さないと。
とは言え命を助けてもらった対価とかどうしたもんか……。
アルマは思案したのちにこう答えた。
「例の件を……、はデリケートな話ですので止めておきます。代わりに私の為だけの樹さんのお手製の魔法の工芸品をください」
僕は無理が利かないので強力なものは造れないことを伝えつつも了承した。
「そういえば、その長い髪はどうするんだい?」
僕らの肩書は冒険者であり彼女も同伴する以上は美しい髪とは言え流石に長すぎるのではと思ってしまったのだ。
アルマは和花と目を合わせると、
「各位への紹介と復帰の挨拶に行きましょう」
部屋を出るように促す。そして出る際に、
「髪は奪い合いになるので少し考えます」
と答えるのであった。【神格降臨】後に生存した真の聖女と呼ばれるようになった彼女の髪は聖物扱いとなるそうだ。
本館を通過中に数人の馴染みの女中ちゃんらと挨拶と復帰の歓迎の挨拶を受けつつ表通り沿いの共同体事務所へと移動した。
以前から雇っている事務員やら増員した事務員に挨拶をすると和花は業務があるという事でここで別れる事となる。以後案内はアルマと瑞穂が同伴する。
事務所を出ようとしたタイミングで運が悪いというべきか書類を持ってきた健司が入出してきて和花と目が合った。
これはマズいと止めに入ろうと思った瞬間――――。
健司は流れる動作で華麗に土下座を決めていた。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
バタバタしているうちに時間だけが過ぎ去ってしまいました。そして年末に向けて業務圧迫である。
更に困ったことにPCが逝ったときに執筆資料のデータを紛失し設定が思い出せないという問題が……。
取り合えず過去の話と食い違ったら指摘してもらえると助かります。




