396話 目覚めと
「……ここは?」
視線の先は見慣れない天井だ。室内は薄暗いもののカーテン越しに明かりが入ってきている。入射角から恐らく四の刻くらいと推測できる。
周囲を見回すとどうやら寝室のようでこの世界の基準でいえばかなり広く天井も高い。寝かされている寝具も元の世界に匹敵するくらいには心地いい。どっかの富裕層の客間だろうか高級宿だろうか?
記憶が混濁しているのか自分がなぜ見知らぬ寝台で寝ているのか理解が追い付かない。果たしてここはどこだろうか?
兎に角妙に心身ともに怠い。だがこの体の怠さには覚えがある。それも嫌な方で。蘇生後の長期休養明けの感じだ。もしかしたら暫く寝たきりだったのだろうか?
そもそもなぜこんな状態なのかが思い出せない。何か誰かに大事なことを教えられた気がするのだが……。
いやいや、そっち大事だが今はそっちじゃない。たしか白き王との対決の最中だったはずだ。で、結局どうなったんだろう?
僕がここに居るという事は悪い事にはなっていないと思うのだけど……。
理解が追い付かず混乱していると――――。
「……っ」
唐突に寝室の扉が開き驚く表情の薄い室内着姿の和花が映る。その顔は徐々に驚きから喜色へと表情を変えると駆け寄ってくると覆いかぶさるようにガバっと抱き着いてくる。
「無事なのは分かっていたけど……良かった」
耳元でそう囁くと位置をずらして頬を染め艶っぽい潤んだ瞳で見つめると啄むように幾度もなく口づけを降らせてくる。僕と言えば妙に積極的だなぁ~などと思いながらされるがままになっていた。
しかし僕も年頃の男子である。好きな娘にここまでされると普段仕事する自制さんが怠業を起こす。
どちらともなく瞳が合う。やや倦怠感を感じつつも左手を伸ばし和花の頬に触れる。何とはなしに頬を撫でつつ目を閉じて、自然と引き合うように僕らは深く唇を重ねた。
僕の左手は滑るように頬から首筋へと動きやがて鎖骨から小ぶりな双丘へと動く。
これまで我慢したしそろそろいいよね? なぜか自分にそう問う。
そして恐る恐る――――。
「おい、小鳥遊。この書類を――」
それは突如にノックすらなく、ガチャリと部屋の扉が開けられた。
そして、入ってきた健司と僕の視線がぶつかる。
「「……っ」」
そして部屋の空気が一気に凍る。
「――執務室に置いておくわ! 昼には取りに来るから!」
バタンッとかなり乱暴に扉が閉まると健司が走り去っていく。
おい、この空気どうしてくれるんだよ?
今のでヤル気ゲージがゼロになったぞ。
どうすんの? どうしたら正解なの? 教えてくれ! 師匠は教えてくれなかった!
「………」
どういったもんかと思案していると。
「……昼まで二刻ぐらいあるね」
和花の表情は能面のようであった。これは健司は死んだな……。
「うん。そうだね……」
などと思いつつ生返事を返す。
やり直しするには十分時間があると言いたいのであろう。妙に高ぶっていた気が急速に萎んでいくのだ。正直ここまでデリケートだとは思わなかった。
「……仕事の話でもしようか」
じっと僕を見つめていた和花がため息をつくとそんな提案をしてきた。ものすごい申し訳ない。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
なんかバタバタしており全然書き溜めが増えない。




