395話 夢の中の世界②
あれ? 生きてる? いや、違う。夢の中とはいえ恐らく死んだのだろう。では何があったのだろうか? 少なくても【飃刃】でも【一閃】でもなかった。[高屋流剣術]にはなく[飃雷剣術]にある技という事か。
『今のが中伝の技【裂空斬】だ。お前に足りない技術の用いた技だな』
自称ご先祖の一言、あの間合い、まさかとは思うけど……。[功鱗闘術]などの他流でも存在する遠距離攻撃?
『その通りだ。勿論人間がどう頑張っても真空の刃で遠距離の相手を切り裂くなんぞ出来ん。故に[高屋流剣術]では失伝した技だ。そしてそれが今のおまえに足りない要素の一つである魔戦技を用いる事だ』
正解だったようだ。しかしそれなりに修練したと思うのだけどまだ足りない?
『お前の技術はつまみ食い状態だ。恐らくお前の師は早急に強くするためにあえてそう教えたのだろうが予想以上にお前の成長が早かったようだな』
確かに魔戦技には遠距離攻撃があったはずだがソレを用いるのだろうか?
その考えは正解だったようで無言で肯首された。自称ご先祖の説明では【裂空斬】は抜刀の際の加速を利用して放つ真空の刃であり間合いはせいぜい2.5サートほどだという。達人が放てば一刀で首を刎ねる程度の威力は出るとの事だ。
魔戦技の技術を転化して使うのだろうがピンとこない。
『そして二つ目だ』
自称ご先祖様がそう言うと周囲の景色が一変する。砂利の多いやや凹凸のある地形だ。この地形だと歩法が使えなくなるので出来れば避けたい場所であった。
『それはお前の歩法が道場剣術の域を出ていないからだ』
僕の技術はあくまでも安定した平地限定の技術であり本来であれば不整地でも同じような事が出来なければ秘伝には至れないという。
試しに戦ってみたのだがいい様にあしらわれただけであった。
やはり僕は未熟だなと痛感する。すると自称ご先祖様がやや呆れた口調でこう述べる。
『お前の比較対象を師か父を基準にしていないか?』
自称ご先祖様が言うには師は人という概念から外れた超越者であり比較すること自体が烏滸がましい。父は人類レベルでいえば限りなく頂点に近い存在だという。
では、僕はどの程度のところに居るのであろうか?
『お前はそもそも技術以前に人を殺すという覚悟が足りない。お前の修めている技術は人を効率よく捌く技術だぞ』
ご先祖様がそんなことを言う。極めればチートキャラみたいになれるのかぁ……。自分の力を誇示するのは好きになれないけど守りたいものを守るだけの力は欲しいなぁ……。
僕に足りないものはまとめると、魔闘術、歩法、人を斬る覚悟と言ったところか。
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その後体感時間で一週間ほどご先祖との訓練で分かったことは、こいつは非常にタチが悪い奴だという事だ。師匠は目標としては絶壁ゆえに対戦すると絶望感しかないのだけど、この男の場合はあと僅かで届くと思わせるのである。そうする事で無意識に動きが雑になっていき隙が生まれる。完全に掌の上で踊らされているのである。悔しいけど経験の差という他ない。
『そろそろ時間だな』
唐突にご先祖様が呟いた。
「何がです?」
しかし僕の問いに応えず打刀を抜けと無言で合図をだす。訝しみつつ打刀を抜き正眼に構える。
『最後に秘伝の更なる上の真技の片鱗を見せる。お前の良いところは動体視力の良さだが、その動体視力に焼き付けておけ』
片鱗?
『理論だけあるが俺ですら体現できなかったのさ』
そんなもん僕如きにどうにかなるのだろうか?
『いくぞ』
今回は試合形式で軽く打刀を合わせてから開始する。
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私事でバタバタしていて全然書き溜めがない!




