394話 夢の中の世界①
男は斬って斬って斬りまくっていた。一振りごとに相手の首が宙を舞う。幾人斬り殺しただろうか? 多くの返り血を浴び装束は赤黒く染まり気が付けばその戦場で立っている者は自分しかいなかった。
打刀を振り血脂を落とし納刀する際に一瞬だが刀身に映った表情は喜色を浮かべた僕だった。
暗転し気が付くとかつて見慣れた道場に立っていた。
「ば、馬鹿な……」
意味が分からなった。そもそも僕は確か……そうだ。白き王と戦っていた筈だ。
それなのに……精神魔術でも受けたのだろうか?
相手の設定した舞台である以上無暗に動いても仕方あるまい。大人しく待つことにした。
程なくして頭に声が響いた。
『圧倒的な力で他者の尊厳を蹂躙するのは実に気持ち良いだろう?』
その声は聴いたはずはないのだが、どこかで聞いたような雰囲気であった。ただし内容には同意しかねる。
あまり歓迎できる相手ではない事もあり左手が鞘に伸びる。きちんと得物はある。不意に背後に気配を感じ振り返った先には一人の男が佇んでいた。僕とよく似た背格好の泰然とした人物であった。
師匠とは別の凄みを発しておりどこにも打ち込む隙が見当たらない。ここまでの存在はこの世界に来て遭遇したことがない。例外は師匠と父くらいか。
「他者の尊厳を蹂躙するのが気持ちいい? 悪趣味が過ぎるね」
僕としてはこう返す以外にない。水鏡先輩じゃあるまいしご同類にされるのは失礼極まる。
『そうか? おかしいな。お前は俺でもあるのだし……』
この男は何を言っているのだ? そう訝しんでいると、『なんだ、知らんのか? 俺はお前のご先祖様だぞ。正確には初代の魂の一部だが』そんな衝撃発言をしてくれた。
一部という事は転生ではない?
怨霊のように取りついた感じでもなさそう?
そうなると……。
『いろいろ考えているようだが恐らく全部違うぞ』
こちらの考えが読まれているのか否定されてしまった。では一体……。
思案していると自称初代と名乗る男が何処からともなく打刀を取り出す。あれは……。
『高屋家当主が佩く事が許される長刀である家宝[無想友近極光]だ。もともとは俺が元の世界から持ち込んだ魔法の武器だ』
父が佩いているのを幾度か見たことがある。当時はすごい威圧感を感じたが恐らくはあれは強力な魔力が漏れ出ていたのだろう。
「それで用件は? 不甲斐ない子孫を叱咤しに来たのか?」
その台詞に対して自称ご先祖の反応は予想外のものであった。
『不甲斐ない? 誰が? それは謙遜を装った嫌味なのかい? いや、違うか。お前の自身に対する評価基準がバグっているのか……』
バグってる?
『まぁ~いい。同門の剣客としてまずは打刀で語ろうか?』
そう言うと自称ご先祖様は打刀をゆるりと抜き正眼に構える。構えを見た感じでは正統派っぽい感じだ。逡巡したのちに僕も正眼に構える。
『精神の世界とは言え運が悪ければ死ぬから気を引き締めておけよ』
そう言った瞬間には間合いに入り込まれていた。歩法【疾脚】の動きであることは判ったがそれだけであった。慌てて【刀撥】で受流しを――――。
しかし同門対決で格上相手に上手くいくはずもなく逆に【風絡】によって打刀を取り落としそうになる。所謂武器落としの技だ。
完全に好機を逸し只管【飃撃】と呼ばれる初伝の連撃をギリギリで捌きつつ反撃のチャンスを窺う。
守勢に立たされ体感で一限ほど経過しただろうか? やや大振りの一撃が僕に襲い掛かる。それを打刀で受け止め【空身】の応用で後ろへ飛び退り間合いを開ける。仕切り直しだ。
だが、それは罠であった。着地した瞬間に 自称ご先祖は納刀しており抜刀の構えを見せていた。うちの流派だと上伝の【飃刃】か奥義の【一閃】になる。この間合いだと奥義の方か。
自称ご先祖様に僅かに力が入る。そう思った瞬間には抜かれていた。
そこで僕の意識はブラックアウトした。
気が付けば11月に……。
出張が終わったと思ったら両親が仲良く入院のうえに私自身は「手術する?」とか言われ始末。
入院するために抱えている仕事を整理して引き継ぎの準備をしていたら執筆してる暇すらなかったでござる。




