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幕間-26 新しい組織の体制と ③

幕間は一旦終わって次話から本編に戻ります。

 雑務の処理は深夜にまで及び気が付けば執務机に突っ伏して寝落ちしていた。時刻は二の刻判(五時)である。この時期はまだ日の出前であるが使用人(ディペンデント)などはそろそろ起き始めて仕事を開始する時間だ。

 寝なおすには遅すぎる時間なので諦めて立ち上がり柔軟運動を始める。これはうちの共同体(クラン)では基本中の基本である。


 四半刻(三〇分)ほど身体を動かすころには小腹が空いてきた。しかし朝食は三の刻(六時)なので実に中途半端な時間である。


 どうしようかと迷っていると法の神(レグリア)神官見習い(フォロワー)が慌ててやってきた。

 彼女とはほぼ接点がないのでアルマの身に何かあったのだろう。そろそろ目が覚めたとかだろうか?


 報告に来た神官見習い(フォロワー)はやや混乱しつつも状況を説明してくれた。とりあえず目が覚めた事だけは判ったので部屋に向かうことにした。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



「あなた……誰?」

 部屋に入った私の開口一番の台詞がそれであった。

 いや、知識としてはアルマの身に起きた現象は知っていた。実際面影はある。神人族(アーテラル)独特の特徴で二次成長期がくると一度肉体の成長が止まり身体を作り替える期間となる。(およ)そ10年前後で完了しその際に肉体は幾分歳を取る。

 15歳ほどに見えたアルマも今は20歳(年相応)である。羨ましい事にここから百年以上は老化とは無縁となる。


「驚いた? もっとも私自身も驚いているのだけど……」

「知識として知っていたけど……」

神人族(アーテラル)なんて今や絶滅危惧種だものね」

「急激な身体の変化に違和感はないの?」

「身長とか伸びて目線とか違和感はあるかな。あと服が着れなくなった」

 そう言ってアルマはその美しい(かんばせ)を緩める。そして気になっていたであろう本題を切り出す。

「ところで私が眠ってる間の事を教えて?」







 ▲△▲△▲△▲△▲△▲







「――。なるほどね」

 見聞きした事、愚痴、推測などを交えた話を四半刻(三〇分)ほど聞き何か思い至ったのか寝台(ベッド)から降りるとややよろよろとした足取りで部屋から出ていこうとするのを慌てて肩を貸す。

「ありがと。流石に寝たきり状態からいきなり動くと足元が不安ね」

 肩を貸すとそう言って微笑みを浮かべる。


 アルマに請われて移動した先は(いつき)くんが寝ている部屋である。薄暗い部屋の中には昨夜から番犬宜しく瑞穂(みずほ)ちゃんが寝台(ベッド)脇に座り込んでいる。


 アルマは寝台(ベッド)脇まで歩くと膝をつき首からぶら下げていた聖印(サーディ・シンボル)を手に取ると祈りを口にする。

法の神(レグリア)よ。この者の魂の在り様を示したまえ。【魂呈示アニマ・インクィシティ】」

 祈りを終えると僅かに光を放つ右手を(いつき)くんの額にかざす。


「どうするの?」

 しかし私の問いは黙っててという手信号(ハンドサイン)で返された。


 程なくしてアルマが口を開いた。

「魂に致命的な傷と穢れがあるわ。(いつき)さんってもしかして何度か【死者蘇生(リザレクション)】経験あるの?」

「何度かあるわ」

 なぜそのようなことを聞くのだろうか? (いぶが)しっていると答えを返してくれた。

「死亡した離魂(りこん)しなければ蘇生が可能なのだけど、死亡回数が増すごとに魂が穢れを帯びてきて離魂(りこん)率が上がるだけでなく運が悪いと穢れた亡者(レブナント)に転じてしまうの」

穢れた亡者(レブナント)?」

 文献で見た気がするけどこういう方面の知識は(いつき)くんに任せっきりだった事もありピンとこない。

「生者に強い怨念を抱いており見境なく殺して回る亡者ね。生前の記憶はほとんどなくあっても歪んでいるか強い妄執くらいかしら。こうなってしまうと祓う以外の方法がないの。早めに分かって良かったわ」

「結構酷いの?」

「魂の穢れはどうにか出来るわ。問題は傷の方ね」

 そう答えると再び祈り始める。

法の神(レグリア)よ。この者の魂の穢れを払拭したまえ。【穢れ除去イレイス・ブランデッド】」

 祈りが終わると(いつき)くんの身体がぼんやりと光りだす。程なくして光が収まるとアルマがホッと息をつく。


「これで当面は大丈夫よ。問題は魂の傷の方だけど……」

 そう言った後に、「女は度胸よ」と小声で呟いた事に私は気が付かなかった。


 アルマが深呼吸をすると気配が変わった。瑞穂(みずほ)ちゃんがアルマに視線を移す。

法の神(レグリア)よ。降臨せよ。我に御手を貸し与えたまえ。【神格降臨(コール・ゴッド)】」

 その祈りは唐突で止める間もなかった。圧倒的な霊圧に曝され思わず尻餅をついてしまう。


 神々しいまでの神気(オーラ)を纏ったアルマの(かいな)(いつき)くんに伸びる。

 光がアルマから(いつき)くんへと移っていきやがて消えていった。それと同時にアルマが崩れ落ちるように倒れる。

「アルマ!」

 慌てており上りアルマを抱き起す。有難いとかラッキーと思いが浮かぶより流石に自分の存在を()してとかシャレにならないと怒りが沸いた。


「だ、大丈夫。私の魂はまだ砕けていないわ。でも――――」

 そこまで言ったのちに気を失ってしまった。






 ▲△▲△▲△▲△▲△▲




「いや、本当にごめんね」

 申し訳なさそうにそういうのはアルマである。あれから半刻(1時間)程して突然目を覚ましたのである。


「本当に心配したわよ。で、神に何を願ったの?」

(いつき)さんの魂の修復よ」


 アルマの返答に言葉が出なかった。神に至ったと豪語した魔術界隈だが魂の修復だけは不可能であったと先生から聞いていたからだ。

 やはり人が神の域に到達する事は無理なのだろうか?


「お礼を言わせてもらうわ。でもこんなことは二度としないでね。アルマが死んだら私もそうだけど(いつき)くんだって喜ばないわ」

「そう言ってくれるのはありがたいのだけど……恐らく次はないわね」

 そう言ってアルマが理由を話す。霊的な傷というのは時間を置くことで僅かずつだが回復していくという。次に【神格降臨(コール・ゴッド)】を願い魂が砕けないほど回復している頃には如何ほどの年月が経っている事やらとの事であった。少なくても30年や40年の話ではないという。


「教団に怒られたりしない?」

「怒られるでしょうね。でも大丈夫よ。こうして無事なんだし」

「最悪の事態は考えなかったの?」

 思わず出たその言葉はややきつい響きであった。

「もちろん考えたわよ。他に手段があったらそちらを頼るくらいにはね」


「済んだことをいつまでも言ってても仕方ないしもういいわ。他に問題はないの?」

法の神(レグリア)を受け入れた反動も初回より負担は少なかったし今まで通りの生活であれば問題はないわ」

「それならいいわ」

 これでこの話は一旦打ち止めとした。恐らくなんだかんだとネチネチと言いそうだと感じたからだ。




「ところで、和花(のどか)にお願いがあるのだけど」

 しばらく沈黙が続いていたところに唐突にアルマがそんなことを言ってきた。

「何? 無茶なお願いでなければ聞くけど……」

 そう答えるとアルマは一旦(いつき)くんの方に視線を移しこう言った。

「彼に【禁止命令(ギアス)】をかけて欲しいの」

「理由を聞いても?」

「霊的な修復を神にお願いしたと言っても一瞬で回復するわけではないの。少なくても一年は無理はさせられない。だから私が許可を出すまで彼に強化魔術などの過度に導管(コンディット)に負荷のかかる行為を禁じて欲しいの」


 思案ししてみたものの(いつき)くんの性格であれば口で言っても無理するに決まっているのでここは【禁止命令(ギアス)】をかけることを決意する。


 部屋に戻りフル装備状態で戻ってきた後にアルマの【大いなる祝福(マグナァ・ブレス)】や私自身も自身に【魔力増強(エンハンス)】などの能力向上(バフ)を施し更に魔法陣(マギア)儀式を組み上げる事で最大限まで魔力強度(マーナ・フォーザー)を高める。


 精神を集中させ呪印(タルムー)をきり呪句(タンスラ)をつむぐ。

綴る(コンポーズ)精神(インテンション)第六階梯(ラミレル)呪の位(メーレディクト)呪詛(ラースツ)拘束(ピュードゥ)精神(インテンス)封印(ペセト)罰則(ポーナエ)条件コンディティオニバズ呪縛(スタバー)強固(フォーティス)発動(ヴァルツ)。【禁止命令(ギアス)】」

 魔術は(いつき)くんの基礎抵抗力(レジスト)を打ち破り呪縛に成功した事が分かった。

 さて、禁止する内容だ。

汝、(ディミティズ・)魔力強化アンプリフィキャティオネムを禁ずる!(・マギキャム)

 術者(キャスター)にだけは禁止命令が受諾されたことが分かる。これで命令を破れば(いつき)くんは死よりも苦しい苦痛が襲うことになる。


「これで良かったんだよね?」

 誰ともなく確認してしまう。


「流石に自殺願望があるとは思わないからコレで良しとしましょう」

「ん」

 私の問いにアルマが答え瑞穂(みずほ)ちゃんも肯定する。



 グゥゥ……



 三人のうち誰かのお腹が鳴った。気が付けば六の刻(一二時)に差し掛かっていた。


「取り合えずお昼を食べに行きましょう。あとの事はそれからでも間に合うわ」

 アルマの一言で私たちは揃って部屋を出て食堂に向かう。あとは(いつき)くんが起きるのを待つばかりだ。




ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。


仕事で昼夜忙しいうえに週末は両親の面倒を見に出張先から戻るので次話は早くても今月中には何とかと言ったところでしょうか。

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