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幕間-25②

 これはダメだなと思ってしまった。

 そんな心境も知らずにルイスがなぜ怪しいと踏んだのか説明を始める。

「【変装(ディスガイズ)】の魔術は本来の姿から大きく逸脱は出来ない。それにその魔術では声は変えられない。せめて声色を変えるくらいの芸はした方がいいよ。そして幻覚は幻覚魔術師(イリュージョナー)であるオレにはそんな単純な魔術(ギャルダー)は通じないよ」

 確かに絶対にバレないとは言われなかったし注意しろとも言われた。まさかここで幻覚魔術師(専門家)と出会ってしまうとは……。自身の迂闊さと我が身の不幸を呪うばかりである。


「か弱い女性に対して無理やり魔法の工芸品(アーティファクト)を引っぺがして正体を晒す行為を、どうかさせないで欲しい」


 これはダメだと思った。完全に私がかつて東方(オリエント)戦の神(ゲラン)の聖女に祭り上げられていたことを知っている。一部想定と違ったが穏やかな生活で危機意識が欠落していた。


「問おう。何故誘拐されたはずの君がここにいる? 結社(ソシエティー)の諜報員にでもなったか?」

 私は溜息を漏らすと諦めて[変装の耳飾りピアス・オブ・ディスガイズ]を外しテーブルに置く。その途端に魔術は解け元の姿に戻る。

「指輪も外した方がいい?」

 そう言って左手の中指に嵌る指輪を見せる。これは中石(メイン)を私の誕生石である小振りで虹色の光を放つ珍しい蛋白石(オパール)とし台座(コレット)(プロング)を誕生花であるネリネ(ダイヤモンドリリー)をあしらい(シャンク)所謂(いわゆる)指輪本体は白金(プラチナ)指輪(リング)魔法の発動体(デバイダー)あるが同時に婚約者(樹さん)から貰った大切なものでもある。

 見た感じではこれを魔法の発動体(デバイダー)と受け取る者はいないだろう。偽装の意味もあると後で教えてもらった。


「それはそのままでいいよ」

 ルイスは少し悩んだ後にそう告げた。偽装品として見たのだろうか?


「繰り返しになるがなぜ君がここにいる? 貴重な文献を盗みに来たのか?」

 しばらく沈黙が続き耐えられなくなったのか最初に口を開いたのはルイスであった。

 無言で首を振る。私がいまの専攻している拡大魔術(エンハンス)は肉体の能力を強化(バフ)または弱体(デバフ)及び超能力的な効果を主とする魔術である。対して結社(ソシエティー)のやっている事は創成魔術(クリエイト)で魔獣、幻獣、魔法生物などの生物や物質を創造し、物質の在り様を変化させる系統だ。


 しかしどこから説明すべきか。正直って担ぎ上げられた似非聖女時代を思い返すのは辛い。私はなぜ初対面同然の彼にこのつらい記憶を喋らされなければならないのだろうか?

 怒りが沸々と支配していくけど次の一言でそれも治まる。

「オレは君を糾弾したいんじゃない。困っているなら助けたい。口に出来ない理由でも?」


 似非聖女時代の事はボカしどういう経緯でここにいるのかについて淡々と説明していった。




 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



「そんな事情が……」

 聖女時代は鑑賞奴隷(アプレーゼ・スクラブ)であったと告げた事である程度の口に出来ない状況を察してくれたのか非常に同情的な雰囲気を醸し出す。

 恐らく枢機卿(カーディナル)の私的な情婦だったとか思われているんだろうなと思ったけどあえて訂正はしないことにした。


「嫌なことを思い起こさせてしまい大変申し訳なく思う。お詫びと言っては何だけどオレに出来る事はないだろうか? あ、もちろん公言はしない。神に誓ってもいい」

 この世界での神に誓ってという言葉は割と重いので謝罪としては十分かと思うことにした。

幸運の神(ファリド)の聖名に誓って貴女の秘密は公言しない。なんなら魔法の契約書(コントラート)も用意しよう」


「そこまでして頂けるのであれば……」


 このやり取りで以後この話は持ち出さないという事になった。




「ところで、どうお呼びすればいい? ミレイユ、それとも……」


 ルイスにそう問われたけど公の場で美優(みゆう)の名を出されるのも困るし何かの拍子に口にされても困る。

「ミレイユでお願いします」

「それで君はここには勉学の為だけに来ているのかい?」

「先ほどもそう申し上げましたけど、基礎を習った後にここに在籍していたフリューゲル高導師(アルタ・グル)を紹介してもらったのでここに在籍した理由ですね。他の賢者の学院(スカラー・アカデミア)高導師(アルタ・グル)を紹介して頂いていたら恐らくそちらに居たでしょう」

「しかし、その……彼らは……」

 ルイスはどういう言い回しをしようか悩んでいるようだ。そうだろう。あのゴリマッチョ集団を見て魔術師(メイジ)だと思う人はまずいない。そしてその中に一人だけ筋肉に縁のなさそうな女子である。違和感しかあるまい。


 男女問わず親しい人には必ず言われたことである。流石にもう慣れた。


「慣れてますので気を使わないで結構ですよ。なぜあんな食人鬼(オーガー)みたいな集団にと言っていただいても……」

 そう言って思わず笑ってしまう。どうやら落ち着いてきたようだ。


 あの筋肉集団は魔術師(メイジ)として優秀であるという理由以外にもう一つの理由が私の警護である。とりあえず半年近く何事もなかったので今回は彼らに同行しなかったのだが、まさか早々に私の正体に気が付く人がいるとは参りました。


 貴方みたいな人から守ってもらう為ですよと告げるべきだろうか? 私が迂闊だった事は否めないので言わないですが。


 取り合えずルイスは納得したのか納得させたのかは分からないけど以後この件に関しては会話に端に上ることはなくなった。



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