幕間-24
23-02-11 一部文言を修正
「もういい加減に屍人ゲーには飽きたぞ」
唐突にそう口にしたのは隣で屍人を杭打ちハンマーで殴り倒した巨漢は俺の相棒である巽壮五だ。寡黙である彼がそんな事を口にするのも珍しい。恐らく本当に飽きてきてるんだろう。
こちらの世界に来て幾日か過ぎてから夜な夜な陣地に屍人が襲撃してきており最初は銃弾で応戦していたのだが、中途半端に威力がありすぎて貫通していしまい効果が薄いという判断で何故か接近戦をやらされている。
拠点を移動できれば楽なのだが【次元門】を解くことは事実上不可能らしく死守せよとのご命令だ。ついでに更に再接続は不可能だというので【次元門】を超えて日本帝国に逆侵攻されたら恐らく僕らは帰れなくなる。何故なら移動先には術を維持するための術者がいる為だ。
足りない戦闘要員はすでに多くの重犯罪者たちを強制連行し最前線で戦闘させたが士気も練度も低く逆に屍人側に寝返っている状態である。先ほど殴り倒したのも元死刑囚だ。
更なる追加の戦闘要員の補給は三等市民を徴発令状で無理やり連れて来たり四等市民を保護資格継続の為と偽り連行してきている状態である。
この件を主導している小鳥遊家の当主にとって犯罪者や三等市民以下は国にとってのお荷物であり少々目減りしても変わりはいくらでもいる。所謂創作物の奴隷と同じような感覚なのだろう。
無論そんな連中の士気が高いはずはない。日に日に屍人側に寝返っていくのだ。
状態の良い遺体は翌日の夜には屍人となって復活するので徹底的に破壊する。夜の襲撃が終わると重機で遺体を踏みまくっている光景は気持ちいいものではない。
そうしてかれこれ一か月ほど経過したがどのくらいの屍人を倒したのかすでに分からない。
派遣軍上層部は撤退を打診しているが日本帝国で寛いでいる本部の面々は撤退を認めない。それどころか督戦隊を用意し【次元門】の前でこちらに重機関銃を向ける始末である。
そんな中で俺にコンタクトを取ってきた人物がいた。その人物は高屋家に縁のある者で防衛陸軍航空科所属の徳永三等陸尉と名乗った。
彼とはすでに面識があった垂直離着陸機の操縦士である。同時に[高屋流剣術]の中伝取得者でもある。
その彼が僕らに提案してきた内容は、ここを脱出しないかとの事だった。
高屋家は防衛陸軍や警察に幅広い人脈を持つので恐らく樹の安否を確認したいのではないのかと思う。
または幽閉中の先代当主である樹の父親の密命か。
俺らはここで磨り潰されておそらく帰還は叶わないだろう。逃げ出す相談は一緒に連れてこられた他の学生たちとも話していた。
この周辺は見晴らしの良い平地が続き昼間に脱走は難しい。かといって夜になれば屍人たちが遊びに来る。
この徳永三等陸尉とやらは実は不穏分子を炙り出す為に俺らに接触してきたのでは?
様々な精神の精霊に大きな動きは見られない。仮に[高屋流剣術]の技を見せてくれと言えばそれっぽい技を見せてくれるかもしれないが専門家でもない俺には本物か偽物かの判断はつかない。
その場は考えさせて欲しいと打ち切った。
翌朝になり大型天幕に戻り同じ境遇の学生連中に脱走の話を持ち掛けようかと思ったところ巽に反対された。理由は情報を売る存在がいる可能性だ。
そこでまずは一人協力者をと思い選んだのは一個下の馬鹿七海という女生徒だ。彼女はこちらでの生活で貴族のサロンで相手が出来るほどの教育を叩き込まれたが所謂高級公娼として生きてきたため日本帝国では肩身が狭いのだ。日本帝国では性産業は三等市民の仕事と言われている。
彼女に声をかけ遠回しに脱走の話を持ち掛けると逡巡する。日本帝国に戻っても一生足元を見られ、こちらに居ても嫌な思い出を思い出すだろう。
彼女から答えを得ることなく五日が経過したとき悲劇が起きた。
昼間に黒い影のような獣が何処からともなく五匹出現し襲い掛かってきたのである。そいつは一目散に【次元門】へと目指し走り抜け督戦隊の攻撃で四体を失ったものの最後の一隊が【次元門】を潜ったのだ。
程なくして銀の円盤が消えた。
何が起こったかすぐに分かった。
俺らは帰る術を失ったのである。
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世の中予定通りにいかないモノで9月下旬に一度自宅に戻ってこれたけど10月から再び地方へと行かなければならないという悪夢。
良い事と言えば資料と辞書ファイルを回収できたことだろうか。夜ビジホに一人とかマジで暇なんですよね。




