幕間-23
今回はやや長め。
双頭の真龍の執務室である。そこには二人の男が居た。一人は偉丈夫、もう一人は半森霊族の男である。
「――。報告は以上です」
「済まないな」
「いえ、これも仕事です」
報告を聞き偉丈夫が少し考えこみ唐突にこう質問を投げかけた。
「ところで、古巣に戻りたいとか思った事はないのか?」
偉丈夫の質問に半森霊族は逡巡したのちにこう返す。
「お気遣い感謝します。気がないかと言えば噓になりますが公式にはオレは処刑されていますし、死んだはずの人間が別人として現れれば彼らも困惑するでしょう。それに今は妻と娘が居ますのでここでパシりをしているのが一番ですよ」
そう口にし笑った。
「そうか。では今後も監視と仲介を頼む」
「承知しました」
そう答えると半森霊族は執務室を出ていく。それと入れ替えるように銀髪の美丈夫が入室する。
そして開口一番
「ようやくあの自称神の尻尾に糸をつけました」
と報告してきた。
「やったのか!」
美丈夫の報告に偉丈夫は喜色をあげて思わず立ち上がる。
ここでいう糸とは探知系魔術のマーキングが成功した事を意味し標的を現在進行形で捕捉している事を意味する。
これまで相手は巧妙に姿を隠し最小限の介入しか行わなかった事もあり毎回あと一歩で追跡を振り切られていた為に困り果てていたのである。
「あいつらには感謝だな」
今回かなりの損害が出ているしまとめ役があんな状態だ。便宜を図るべきだろうと考えていると。
「そうですね。あそこまで白き王を追い詰めたからこその形振り構わぬ干渉でしょうし。それよりも――――」
話はあの戦闘の最優秀賞モノの一撃を繰り出したあの忠犬の少女だ。特に驚いたのは【精神破壊】によって人形のようになった状態であったにも関わらずあの時だけ動き出した。それだけでも奇跡だが的確に白き王の霊的情報元だけを切断した事だ。確か報告では樹が[透過するもの]という[魔法の武器]を手に入れていた筈だが……。
いまも眠り続ける忠犬少女が如何に規格外な存在かという話が続き哀れな白き王に話題は移る。
「まさか白き王に不死身の仕組みが並行世界の自分自身の命を引き換えだとは流石に想像できなかったな」
偉丈夫がそう言って感心する。ここでの関心は純粋に魔術の仕組みとしての話だ。
そして話は技術的な話へと脱線していく。
暫くして技術的話も一段落したところで脱線した話を美丈夫が戻す。探知の糸がつけられた理由は切れた霊的情報元が復元する現象をから辿ることによって自称神にたどり着いた。
「あいつ等にはいずれ報いてやるとして、自称神をどうする?」
偉丈夫としては殺る気満々である事が表情に出ている。
「糸に感づかれると次に捕らえられるのは何時か分かりません。それに今回のような奇跡は早々ないでしょうから直ぐにでも仕留めるべきかと」
「やはりそうだよな……。んで、どっちが殺る?」
そう問う偉丈夫の表情は是非とも自分がと語っている。しかそれは叶わなかった。
「いえ、私が仕留めます。貴方にはその後の混乱を彼女と共に抑える方に回ってもらわないと」
美丈夫が言う彼女とは偉丈夫の前世からの恋人にして小さな聖女様だ。強大な力を持つが制御能力に難がありその補助をできるのが偉丈夫だけなのである。
「実につまらん」
「つまるとかつまらないという話ではないかと?」
美丈夫が呆れつつ話を進める。
「しかし、自称神を討伐後に確実に起こるであろう出来事の方だ」
「残った制御を失った三千万の狂信者が暴徒化する。ですね」
「そうだ」
自称光の神の狂信者は魔法による洗脳でないため信仰の対象である自称神を打倒しても彼らの行動原理が変わることはない。多くの信者は神の死を感じる事は出来ずにいる為に命尽きるまで自らの信仰心を満たすために行動する。
「流石に数百代にわたって隔離された環境で洗脳教育を施された彼らを再教育するのはほぼ不可能でしょ。赤の帝国あたりといい感じに潰しあってくれる事に期待しましょう」
小さな聖女の役目は他に被害が出ないように巧妙に立ち回る事だ。そして偉丈夫の役目は彼女の暴走を抑える事と揺り戻しに被害を抑える事にある。
超越者と言う存在は良くも悪くも世界に影響がありすぎて世界が平衝を取るために揺り返しが起こる現象を最小限に抑える必要がある。小さな聖女にそういう器用な立ち回りは出来ない。
本人の善性とか善悪論で語りうるものではなく、彼らが大きく動けば人類にとっては脅威・災厄である存在なのだ。
それ故に人の世において彼らのような超越者は現世の者らで対処できる範囲では過度な干渉を極力禁じている。
強大すぎる力が一方に加担すると不思議な事にもう一方にも何らかの力が加担され事態は天文学的に悪化するのだ。
それはこれまでの歴史が証明していた。それを知るゆえに彼らは時に非情になるのだ。
「自称神を生かしておいた場合の被害を考えると仕方ない数値か……」
偉丈夫らは数千万人の死者でる事を仕方ないかで済ませられるレベルの被害が出ると試算しているのだ。それは彼らの侵攻目的が自称神を崇めない者の殲滅だからである。
その理由が如何なるものかと言えば。
「自称神はこの世界の唯一神になりたいのか……」
この偉丈夫の一言に尽きる。
この世界の神々の力の源泉は知恵ある者たちの信仰心である。自らを信じるもの以外を討伐する事で様々な神々の影響力を遮断したいのではという答えに至ったのではないかと推測している。
「やはりそれしかありませんよね」
美丈夫の方はと言えば馬鹿なことを考えているなと言わんばかりの表情である。
恐らくだが元々は当時は三下で名も知らぬ半神か従属神であった存在が信者を増やし力を増し全能感に満たされてきたからではないか。
だが、その力は仮初のモノである。存在しないはずの神を騙りえた力ゆえに正体がバレれば得た力が失われるのではという恐怖からの行動にも見える。
実際のところ神は高次の存在へと至った際に複数の並行世界に影響力を持つようになり極端な世界改変に対して必ずと言っていいほど揺り戻しが起こる。
「恐らくだが、三下すぎてモノを知らないのではないのだろうか?」
「それは十分ありますね」
「だとすれば人類からすれば傍迷惑な話だな」
そして彼らは各々の役目を果たすために動き出す。
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