40話 いざ迷宮へ!
冒険者組合への道すがら嫌なものを見てしまった…………。
師匠からも多分見かけるだろうとは指摘はされていた。だが現実に見てしまうと…………。
「あれって同じクラスの佐藤じゃね?」
そう僕に問いかけてきたのは隼人だった。どうやら彼も気が付いたらしい。
僕らがたまたま日本帝国語を使っていた事もあったのだが、その声が届いたようで佐藤がキョロキョロと周囲を見回している。
彼は値札のついた首輪をしており着ているものもゴツイ鎖付きの首輪に薄汚れた貫頭衣のみに素足なので一目で奴隷だと分かった。
「私たちも運が悪ければ、あーなっていたんだろうね。先生には感謝してもしきれないなぁ」
足を止めた事に気が付いて様子を見に戻ってきた和花も僕らが何を見ていたのか気が付いたようだ。
出来れば皆を元の世界に返してやりたいが、僕らには奴隷を買い取る軍資金がなく住まわせる場所もなく食費も捻出する余裕がない。
「ないない尽くしだねー」
そうボヤかずにはいられなかった。
「いつまでも見ていても仕方ない。いこー」
和花と隼人と促して先行する師匠に追いつくために足早にその場を離れる。
「何か面白いもんでもあったのか?」
追いついた僕らに対しての健司の第一声がそれだった。
見てきたものを話すと「ふーん」と興味なさげである。疑問に思っていると…………。
「なんだ気が付かなかったのか? そこら中に日本帝国人の若いのばっかりだろ?」
そう言われて周囲を見回すと確かに黒髪の若い男女が多い。今回強制転移の対象となった僕らの居た学校は規模が大きく一年生から十二年生までで凡そ三千人ほどいた。それに幼稚舎と教職員が加わる。異世界にこれだけの数が集まっているという事態が異常で正直言うと数が多すぎて逆に気が付かなかったのだ。
そしてこの道路沿いに売りに出されている奴隷のほとんどが日本帝国人だ。たまに亜人とさげすさむ》も僕らが何を見ていたのか気が付いたようだ。
出来れば皆を元の世界に返してやりたいが、僕らには奴隷を買い取る軍資金がなく住まわせる場所もなく食費も捻出する余裕がない。
「ないない尽くしだねー」
そうボヤかずにはいられなかった。
「いつまでも見ていても仕方ない。いこー」
和花と隼人と促して先行する師匠に追いつくために足早にその場を離れる。
「何か面白いもんでもあったのか?」
追いついた僕らに対しての健司の第一声がそれだった。
見てきたものを話すと「ふーん」と興味なさげである。疑問に思っていると…………。
「なんだ気が付かなかったのか? そこら中に日本帝国人の若いのばっかりだろ?」
そう言われて周囲を見回すと確かに黒髪の若い男女が多い。今回強制転移の対象となった僕らの居た学校は規模が大きく一年生から十二年生までで凡そ三千人ほどいた。それに幼稚舎と教職員が加わる。異世界にこれだけの数が集まっているという事態が異常で正直言うと数が多すぎて逆に気が付かなかったのだ。
そしてこの道路沿いに売りに出されている奴隷のほとんどが日本帝国人だ。たまに亜人と蔑む獣耳族が混ざっているようだが現地人は数えるほどしかいない。
奴隷は本来道具であり財産でもあるので僕らがイメージするような過酷な環境にいるものは少数との事だが、会話が成立しない彼らは売れ残り扱いのようだ。値札をちらりと見ると金貨3~5枚とかだったりする。ここは売れなかった奴隷の最終処理場なのだという。
ここで買い手が見つからなければ櫂船の漕ぎ手として犯罪奴隷と混じって死ぬまで櫂を漕ぎ続けるか、危険な鉱山奴隷でもっとも過酷な場所で死ぬまで労働させられるか闘技場で戯れに怪物に殺されるかといったほぼ死亡確定コースしか未来がない。
多くの者がやせ細り死んだ魚のような目をしている。あーなってしまうともう買い手もつかないだろう。
後ろ髪引かれる思いだが諦めよう。
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「相変わらず、ザ・お役所って感じだよなー」
そう呟く健司に同意せずにはいられない。関連窓口で受付番号を取り待合室でただ座って待つだけである。
「そうだよなー。冒険者組合って言ったら、やっぱ酒場が併設がデフォじゃねーの? この世界おかしいよ!」
でも普通に考えると依頼受注、依頼の裏取り、税金前払い、各種事務手続きのなどの面倒事を代行してくれるんだからこんなお役所な感じでいいのではないだろうか? 僕らが思い描く冒険者組合は元ネタが確かTRPGのGMの負担軽減から生まれたと聞いたし、そもそもが冒険者の絶対数からして少ない。階梯やレベルなんかはネトゲが流行ったころの影響だろうって識者が言ってたなー。
それにこの認識票は魔法の工芸品で記録した生体情報を元に個人を特定している貴重な身分証明書なわけだけど、大規模組織の商人の下部組織だからこそなんだろうなー。
「んで、どうするよ?」
健司に唐突にどうするよと言われても…………とか思ったけど、どうやら考え込んでいて話を聞いていなかった。
「任せるよ」
よく考えもせずに一任してしまった。後に後悔するのだが…………この時は知る由もなかった。
その後各種手続きには一刻ほど要したけど迷宮への入場許可と棲家の確保が終わった。
とりあえず棲家の方は後で確認するとして先に迷宮を見てみたいと意見が一致し師匠がガイド役として同行することまで決まってた。
「ここが迷宮区だ」
師匠はそう言って一度立ち止まり開かれた巨大な鉄門を見る。門の左右には他の市壁でも配備されていた魔導従士が立っている。あいつらは重い鉄門を閉めるために配置されているんだとか。
25サートほど奥に迷宮への入り口がありその手前に冒険者組合の出張所が存在する。
この出張所の役割は入退場する冒険者の管理と駐留軍からの依頼を受け付けるだけである。
「この高さ2.5サートの両開きの分厚い鉄門が迷宮への入り口だ。常時開いている。そして左にある石板に————」
そう説明した師匠が認識票を取り出し石板にかざす。
「これで入場登録完了になる。こっちの左側の石板が入場登録で、門の右側にあるのが退場登録の石板だと覚えておくといい」
師匠に言われて門の右側を見ると同じような石板がある。
迷宮入場門まで歩いていき、左側にある石板のようなものに認識票を掲げたあとで師匠が入るぞと顎をしゃくる。
僕らも師匠の真似をして認識票をかざして鉄門を抜ける。
入るとそこは幅2.5サート程のまっすぐの下りの階段となっており天井の高さも同じくらいだ。1サート間隔に気体燃料角灯が設置されていてあまり明るくはないが足元は十分に確認できる。
その螺旋状になっている階段を85段、高低差5サートど降りるとそこは開けた空間だった。
「あれって露店?」
和花がそう呟く。
その開けた空間は無秩序に露店が並んでいたのだ。
「まるでネトゲの露店エリアだな」
隼人の感想には僕も頷けた。この無秩序っぽい雑然とした感じが如何にもそれっぽい。
「ここは地下一階の入口広場だ。怪物が湧かない事を良いことに露店やら仮宿やらが乱立されている。仮宿で寝泊まりして長期滞在している猛者も多い。もう少し近づくと分かるが————」
そう説明する師匠だが途中で言葉を切る。
「臭いが酷いですね。不衛生すぎる」
そう答えたのは和花だ。すでに鼻をつまんでいる。隣の瑞穂もうんうんと頷きつつ同様に鼻をつまんでいる。
「町の下水設備と繋がっている。臭い消し用に香水を振りまきまくっているせいか合わさって初めて来る者には不快な臭いになる。兎に角慣れるか生活魔術の【消臭空間】をかけてやり過ごすしかないな」
その後の説明で各階の広場は安全地帯の為に露店や仮宿を設置する猛者もいるらしい。また攻略組と呼ばれる冒険者達の編成が現在20層の広場を拠点としていて物資集積場を築き上げているらしい。
師匠の説明を聞きつつ地下一階の広場を抜けていざ迷宮内部へ!
ビルダーズ2沼から抜け出せない…………。




