391話 対決。白き王-前編
出張先から数話だけ投稿。
かなり昔に書いた固まりきってなったキャラ紹介を削除しました。現在跡地は空欄としてます。
倉庫の扉を開け街路まで出ると10サートほど先で白き王が衛兵隊や冒険者を相手に素手で無双していた。完全装備の人間が漫画のように吹き飛んでいくとか軽く見て重傷だろうなとか暢気な事を考えつつ歩を進める。
このいつダメになるか分からないポンコツの身体で出来る事は多くない。
なぜか分かってしまった。根拠はない。死亡フラグだろうか?
まずは目的を明確にしよう。
白き王の余裕の元である残機らしきモノを可能な限り削る。倒せたらラッキーくらいに考えておく。そこまで頑張れば最後は和花がなんとかしてくれるだろう。
次の白き王の攻撃手段とその使用頻度の確認か。アリスの報告だと闇の奇跡と魔術を僅かに使用したと言っていた。
白き王の呪的資源管理の問題やそもそもがあまり使えない可能性もある。そこらを見極めないと返り討ちにされかねない。
そうこうしているうちに5サートほどに近づいた。白き王は実に楽しそうに無双している。純白に豪奢な装飾の施された板金鎧を身に着けているが動きは人間離れしている。視界確保を優先したか見た目に拘ったか兜が冠型兜である。これは首を狙えって事かな?
特に気配を消していたわけではないが出涸らしの雑魚は目に入らないのか白き王の背後を取ってしまった。その距離2サートだ。【一閃】の間合いではある。アリスの話から恐らく白き王は痛覚が限りなくゼロに近い。刺突系の技で動きを止められると組みつかれる。かなりの怪力のようだし掴まれたらアウトと思っておく方がいい。
無双を楽しんでいた白き王が唐突に動きを止め振り返った。見知った、かつては友情を感じていた姿を見ても何ら感情に動きはない事に不思議に思う。
「やあ。久しぶりだね」
自分でもすんなりと言葉が出た。白き王は僕を見ると何とも言い難い表情をする。だがすぐに下卑た表情となった。
「誰だっけか? 悪いな。三下の存在まで覚えてられなくてさ」
そう言って白き王は目線を僕の腰に佩いた打刀へと動くと下卑た笑みを浮かべる。随分と余裕のある事だ。
「おいおい。そんなすぐ折れるような棒切れで俺様と殺ろうっていうのかい?」
こっちの世界だと打刀は美術品以外の人気はあまりない。斬れないし直ぐに壊れるからだ。
ただそれはそもそもが使い方を間違えているのである。打刀は非常にデリケートで金と技術の掛かる運用が求められた手のかかる子なのだ。そして多くの者はそれを学ぶ機会もなく広刃の剣などと同じように扱う。軽くて薄い刃はさぞかし頼りなく感じるだろう。
「そっちは得物は良いのかい?」
だが、僕の問いに対して白き王は周囲を見回し、
「周りが見えねーか? 雑魚に得物はいらねーよ」
そんなことも分からないから雑魚なんだよと言わんばかりであった。
開始の合図はなかった。まず最初に動いたのは白き王だ。突然左手を大きく振りかぶった。事前情報で衝撃波を放つ事は判っている。それにしても予備動作が分かりやすく実に隙だらけだ。僕は来るべきタイミングに備えて軸足に力を入れる。
白き王が右手を振り下ろした瞬間に僕は歩法【八間】による爆発的な加速で一気に間合いを詰める、衝撃波をすれすれでやり過ごす。そしてすれ違いざまに抜刀。白き王の背後に立ちゆっくりと納刀する。
振り返る必要はない。奥義【一閃】は確実に隙だらけの左側から首を切断していた。バルドさんの作った打刀は人体など紙に等しく切り裂く。程なくして白き王の首が街路に転がり落ちる。
振り返ると首のない肉体が街路に転がる頭を拾う。そこへ投擲短剣を投じると難なく命中するが動きが止まらない。そのまま頭を定位置に戻し数秒ほど間があった後に光り輝くと白き王は復活していた。
大体報告と同じだ。付け加えるなら残機から切り替わる前は無敵状態っぽい。
「雑魚だと思って少し油断したようだ。これからが本番だぜ!」
白き王は矜持を傷つけられたようで言語化不能な叫びを喚き散らし闇雲に両腕を振るう。左右交互に衝撃波が飛んでくるが予備動作で衝撃波のコースは丸わかりなので躱す事などたやすい。
いつまでも当たらない攻撃に業を煮やしたのか唐突に街路の端に走り寄り転がっていた衛兵隊の鉾槍拾うと柄の下の方を持ち片手でぶんぶんと素振りし始めた。その素振りは人間が出せる速度ではない。人間など一撃で致命傷だろう。何ら努力もなくあれを獲得したとなれば確かにずるいだな。
「なんだ怯えてるのか?」
どこをどう捉えたのだろうか。のんびり眺めていた僕が怯えて動けないように思えたらしい。確かに昔から物事を都合の良いほうに解釈する癖はあったけど此処まで酷くなかったはずだ。都合の良い様に操るために精神を弄られているのだろうか?
僕は[魔法の鞄]から一振りの片手半剣を取り出し両手で持ち正眼に構える。ぱっと見はごく普通に数打ちの片手半剣である。更に投擲短剣を五本取り出し鞘に納める。
「打刀よりはマシな得物じゃねーか。最初からそれを出せよ。出し惜しみしやがって雑魚が!」
息巻いているがそれならさっさと潰せばよかろうと思うのだけど、やはり残機が心もとないのだろうか?
では次はあの鎧の防御力を検証してみるか。恐らく普通の板金鎧ではあるまい。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
出張先から投稿しています。
会社貸与のPCだと辞書登録がなくえらい苦労してます。




