幕間-20 とある道化師の目線-後編-
割と痛い描写があるので注意
まずは聖職者を黙らせなければ!
「あの邪神の使徒に石の呪縛を! 【石化の呪い】」
そう叫んだが邪神の美しい聖職者は抵抗したのか効果がなかった。こうなれば荒っぽいが一度半殺しにしてでも黙らせるしかない。俺は俺の体内に眠る長槍を呼び出す。聖剣と並ぶもうひとつの得物である聖槍だ。
両手で握りしめ突進する。まずは脅しで足元に一撃入れる。小娘は得物がないしまだ治療中だから無視だ。
しかし俺は失念していた。皇との戦闘で街路をあちこちボロボロにしていたことに。
自分で穿った街路の穴に足を取られとっさに平衝を立て直すが突進の勢いは殺せず狙いは邪神の美しい聖職者を串刺しにするコースだった。
これは惜しいことをしたなと思っていると認識の外に追いやっていた小娘が邪神の聖職者に体当たりをしていた。そして勢いのまま聖槍は小娘の腹を串刺しにする。
苦悶の声を上げるもののいい声で鳴かないことが気に入らなくて串刺しにした小娘ごと聖槍を持ち上げる大きく横に振り放り捨てる。
その時であった。槍からすっぽ抜けた途端に右手をスカートの中に突っ込み何かを投じた。そしてそのまま街路の端まで転がっていく。
気が付くと喉に何かが二本突き刺さっていた。慌てて引き抜き投げ捨てる。それと同時に血飛沫が派手に上がり空気が抜けるような音が聞こえる。動脈と気道が穴空いたらしい。また残機減るのかよ……。あいつどれだけするいなんだよ。くそ! これで残機が6人か。
あいつは殺してから連れ帰ろう。それがいい。絶対に分からせる!
肉体が再生したのを確認し小娘の方へと歩を進める。小娘はと言えば近くの冒険者である邪神の聖職者によって治療を受け始めており立ち上がろうとしていた。
「どけ!」
俺は右手を振ると衝撃波が飛び冒険者らと小娘も吹き飛ばす。まだ距離があり被害が少なかった冒険者らは悲鳴を上げて逃げていき小娘だけが残った。
その時だ。
「斉射!」
若い男の号令とともに俺の身体を無数の太矢が背後から貫いた。振り返ると近代的な滑車付きの重弩を構えた小僧どもがいた。その数は十人。五人が装填を行っており残り五人は俺を狙っている。距離があり衝撃波の射程距離から外れているのが小賢しい。
そんな姑息な武器で俺が殺れると思っているとは片腹痛い。俺はよろよろと立ち上がる小娘を放置して小賢しい小僧どもから仕留めることにした。
走り出した途端にまとめ役格の号令で太矢が発射される。俺の後ろには小娘がいるがお構いなしである。
三本が胴体に刺ささるが身体はまだ動く。
『おい、雑魚と遊んでないで邪神の聖職者を仕留めろ。まずいぞ』
頭の中に自称神の声が聞こえたと同時に放置していた邪神の美しい聖職者から強大な力が膨れ上がるのを感じた。
確かにあれはまずい!
かつて一度だけ感じてた【神格降臨】だ。若いからそんなに格の高い聖職者だとは思ってなかったぞ!
『何とかできないのか? おなじ神だろう』
『無理を言う。まだあっちの方が格が上だ』
実に使えないという言葉を飲み込み標的を変える。それを阻止するべく小僧どもが小剣を抜いて立ち塞がる。
「邪魔だ!」
左手を振り衝撃波で小僧どもを吹き飛ばし残っていたまとめ役格の小僧に聖槍を繰り出すが狙いが外れたのか小僧の右肩を貫くに留まった。
「あっ」
誰かがそんなことを発した。その瞬間に俺の首に細い一対に細い足が絡む。何事かと思う間もなく首が極まり宙に浮く感覚から頭から落ちた。
何があったか理解できないうちに残機が減った。これで5人である。流石にまずい。
そして回復が終わり原因が判明した。
俺に絡みついた足は小娘のものであった。恐らくは首に絡みつき捻って投げられたものと推測する。体格差があるのにこれは流石に屈辱的だ。
恐らく両手が使用できないことで技が不完全だったのだろう。足が未だに俺に絡まったままである。
俺は絡みついたままの小娘の足を掴むと立ち上がり逆さに持ち上げる。まずは腹に一発蹴りを入れる。これでも悲鳴を上げない。街路に叩きつけ膝を思いっきり踏みつける。膝を砕かれても悲鳴を上げない。しかも両目は未だに力強い。
これでどうだとばかりに残った無事な膝も踏み折る。どうだとばかりに見つめると口から何かを吹いた。
その途端視界が左半分になった。何事かと思えば礫が俺の右目を潰したのだ。角度の関係か脳まで届かなかったのは幸いである。
気が付いた時には怒りに我を忘れ小娘をボロボロになるまで踏みつけていた。整った顔立ちも見るも無残なものである。
流石に死んだかと思ったが身じろぎするのである。俺は恐怖した。こいつは正真正銘の化け物だ。まずはこいつの心をへし折らねばならない。
俺は恐怖からある魔術を選択した。
「発動。【精神破壊】」
弱り切っていた小娘は抵抗出来なかったのか瞳から光が消え身動きしなくなった。
これで安全である。俺はほっと一息をつく。
その時である。
「戦乙女! お前の投槍を放て! 【戦乙女の投槍】」
光り輝く投槍が俺に命中し弾け血飛沫が舞う。いつの間に近寄ってきたのかやや耳がとがった細身の男が居た。
次から次へといちいち邪魔ばかりしやがってと沸々とした怒りが沸き上がる。だが俺の報復行為は叶うことはなかった。
「法の神よ! その大いなる力にて邪悪なる者を追放せよ!」
怒りのあまり失念していた邪神の美しき聖職者が降臨したに願い口にしたのだ。
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「いつもの大型天幕だな」
俺は素っ裸で寝台に寝転がっていた。留守中という事もあって女どもは居まい。
「残機まだ減らされたのか……」
これで並行世界の選ばれなかった俺様は4人となる。何とか残機が増えないだろうか? しかしこの世界ってバグってないか?
俺は神に選ばれた存在で敵を数多く倒し経験値をためてレベルだってカンストも見えて来たんだぞ。
『おい、どうなってる?』
『想定外ではあったが収穫はあったではないか』
『どういうことだ』
『もう強敵は存在しない』
『本当か?』
『あんな奴らがそうそう同じ場所に固まってるわけないだろう』
疑わしいが確かにレベル90後半の俺と同じくらいの奴がそうそう居る訳がないな。
『納得したら目的にモノを探してきてくれ』
『それを持ってくるとどうなるんだ?』
『私の力がさらに強くなる』
そうなのか。そこでふと思った。それを俺自身に使えば俺自身が神に届くのではないのだろうか? だが頭を振る。それを今知られるわけにはいかない。
『装備を整えてから行くよ。聖剣も聖槍もあっちに置いてきてしまったしな』
自称神にそう答えて俺は女たちを呼び寄せる。
まずはこのイラつきと沈めなければ。
『行ってくる』
女たちを足腰が立たなくなるまで可愛がり装備を整えて十字路都市テントスへと転移する。
転移先では復興作業が始まっていた。とりあえず俺の得物はどこだ?
俺の存在に気が付いた衛兵隊のうち勇ましいのが幾人か襲い掛かってきたが軽く蹴散らし目的にモノを探す。
勘の様なものだろうか? 振り返ると平服に打刀を下げたやや細身の男が立っていた。
「やあ。久しぶりだね」
その男はそう言って笑みを浮かべた。
こいつ出涸らしの雑魚の分際でこの世界で生きてたのかよ? 待てよ。っていう事は和花も生きているのか?
まずは軽く痛めつけてから聞き出すとするか。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
気が付けば8千文字近くになってしまった。
次話は本編に戻りますが社畜な私は急な現場対応で地方へ出張に逝きます。恐らく一週間ほど帰れないかと。
頑張って今月中には次話掲載するつもりです。
その時はよろしくお願いします。
因みに白き王の目にはゲーム感覚で周囲が映っていますが彼の見ている情報はいい加減です。また痛覚がほぼありません。




