388話 惨状①
「樹くん。待って!」
和花に呼び止められ慌てて止まる。思わずイラっとした口調で「なに!」と答えていた。
「現場までどれだけあると思ってるの。いまから一頭立て軽装馬車を呼ぶわ」
ついついカッとなっており現実を忘れていた。ここから現場まで軽く見積もっても5サーグはある。例外はあるが基本的には都市部での魔法は違法として結構な罰金が科せられるのでうっかり【飛行】なんか使った日には冒険者組合に始末書+十字路都市テントスに罰金刑だ。
二限もしないで送迎業の一頭立て軽装馬車がやってきた。
和花と二人飛び乗る勢いで着席すると特急で定宿まで飛ばすように言う。
指定の運賃に特急料金とトラブル時の賠償金も込みで金貨10枚を渡す。
御者はギョッとした表情をするものの僕らの表情を見て「しっかり掴まってくださいね!」と叫ぶと猛スピードで街中を走り抜ける。
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半刻弱で特に大きなトラブルもなく定宿の近くまで送ってもらえた。礼を言うとともに飛び降りると思い出したように心づけとして金貨1枚を渡しておく。 大喜びしているがこっちはそれどころじゃない。
本来は定宿までのはずであったが衛兵隊によって規制線が張られており周囲は野次馬ばかりである。僕らは認識票を見せて規制線の内側に入れてもらう。
街路沿いの建造物は軒並み倒壊しており例え内壁地区のような混凝土製の建造物ではなかったとしても強力な爆発物が用いられたのだろうと判る。恐らくは【爆裂】級の効果を発揮する魔法の工芸品を複数用いたのだろう。
救護用の仮設大型天幕などが展開されており衛兵隊と冒険者らで瓦礫の撤去や生存者の救助活動などが行われている。事件の中心から外れている事もあってこの辺りに収容されている者は軽傷者のようだ。
救護活動を邪魔しない程度にウロウロと見知った姿を探す。何度か似たような対象を見つけるものの別人である事を知り安堵しつつ定宿に到着すると瓦礫は撤去され重傷者用の大型天幕が張られ聖職者らが必死の治療にあたっていた。
定宿を通り過ぎ共同体で借りている倉庫に到着する。建物自体は無事であった。これまで共同体の被害者は見かけなかったが果たして……。
「……あっ」
そこには名は知らないが小間使いとして役を買っていた見知った男の子が座り込んでおり僕らに気が付き腰を上げる。
「みんなは?」
僕の問いに泣きそうな表情で倉庫の引き扉を無言で開ける。そこには主要メンバーの他に後日合流する予定であった船員らが寝かせられていたのだ。それを看護するために同じく後日合流予定の女中ちゃんらが忙しなく走り回っていた。
見たところ死亡したものは居ないようである。まずは彼らの無事に安堵した。これまでは遠い出来事のように見ていたのだろう。ここにきて爆破事件を起こした者らに対して激しい憎悪が芽生えた。
「……樹君」
僕に声をかけてきたのは倉庫の端で座り込んでいたアリスであった。
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