39話 迷宮都市ザルツにて下準備
2023-09-15 文面を一部修正
駅舎街から目的地の迷宮都市ザルツまで特筆すべき事が何もなかった。
何せ距離にして50サーグの街道の両脇が全てが小麦畑になっており変わり映えがないのである。
僕らは師匠の所有する中型平台式魔導騎士輸送騎の居住区のソファーでまったりというかぼんやりとしながら流れていく景色を眺めている。
「また樹くんは考え事?」
そう問いかけてきた和花の表情は呆れたと言わんばりであった。
「いや、本当にぼんやりとしてただけだよ」
そういつもいつも考え事してるわけじゃないよと言いたい。
「そうなんだ? てっきり瑞穂ちゃんの事でも考えていたのかと思ったよ」
そんな事を言いつつ僕の横に腰掛ける。 師匠の話から推測するに瑞穂が足手まといになる可能性はかなり低い。二か月で戦列に加われるように調きょ…………鍛えてくれると言っていたのであまり心配していない。
「師匠に任せてるし瑞穂の事はあまり心配していないんだよ。それよりまだ当分暇だろうし和花も一眠りしたら?」
右隣で寝息を立ている瑞穂を指しつつそう言うと少し頬を膨らしむくれてしまう。
「じゃーそーしますー」
そのまま僕の左肩にコテンと頭を預けてきた。程なくして寝息が聞こえてきた。そしてそれに合わせるかのように僕の意識も睡魔に捕らわれていった。
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二刻ほど眠っていたようでお昼過ぎに目が覚めると迷宮都市ザルツの巨大な市壁が地平線の彼方に見えてきた。距離にして残り2サーグほどだろうか? 魔導輸送騎の移動速度的には目と鼻の先と言ってもいいだろう。
冒険者なので入都税の支払い義務はない。今回は師匠の冒険者階梯特権で入都手続きを最優先で済ませてもらい待たされることなく魔導輸送騎から降ろされる。ここからは師匠と共に徒歩での移動となる。
僕らを降ろした魔導輸送騎は冒険者で輸送代行業務専門の人が師匠の拠点へと向かうそうだ。
「さて、何をするにも軍資金と住居が必要だ。軍資金は迷宮に籠って堅実に生活すればわりかし稼げる。ここに滞在している多くの冒険者どもは毎日散財して金欠に喘いでいるがマネしないようにな」
ありがたい事に師匠の最初の説明は瑞穂もいるということで分かりやすく日本帝国語だ。僕らもある程度は会話できるようになったとはいえやはり母国語レベルでやり取りできるわけではないので非常に助かる。
つくづく三年前に師匠と巡り合えた幸運に感謝である。
「堅実な生活って事になると全員宿屋で雑魚寝っすか?」
「いや、他の町ならともかく此処だと借家か長屋か板状型集合住宅を借りるほうが安く済む。家賃は一か月分の滞在税込みになるが保証人不要だ。ただし家賃の滞納は認められていないので滞納すると即追い出されて家財道具を勝手に売り払われるから注意な」
「さて、ここからは————」
師匠がそう言って話題を転換する。話をここでの基本的な生活などの注意点に移った。
まず冒険者は迷宮街と呼ばれる地区と今現在いる共有街以外の立ち入りは禁じられている。他の地区に行くには許可証を発行してもらう必要があるとの事だ。ただ————」
健司の質問に対しての師匠の回答だったが、宿屋で雑魚寝だと毎日空き宿を捜し歩いて手間だし、毎週滞在税の支払い手続きも手間なんで時間的ロスだしなとの事だった。
その後も冒険者組合の迷宮支部への道すがら師匠による日本帝国語によるこの街での過ごし方などの説明を聞きつつ周囲を見て回ると、建物などが定番の西洋建築もどきではなくまるで帝都のからやや離れた雑居ビル街かって感じの五階建てくらいのビルが立ち並んでいる。
以前見たルートの町などはテンプレっぽい欧風っていうか15世紀くらいの建造物だったから地域差なのか、それとも文明レベルの違いなのか?
今現在歩いている迷宮街は厚い市壁で囲われており、言い方は悪いがゴロツキや低所得者、市民証を持たない住所不定者などを囲う檻でもある。冒険者組合や関連店舗なども一通り揃っているために他の地区に行く必要はないともいえるが、実際には迷宮から魔物が溢れた場合や妙な疫病に感染した場合はお前らで処理しろよって事らしい。ある意味隔離施設扱いでもある。
「なんか夢や希望もありゃしないって感じだな」
隼人がそうボヤくのが聞こえたが、それには激しく同意だ。
「迷宮は腰かけ程度に考えておいた方がいい。軍資金に余裕が出来たらここを出て本物の遺跡巡りをした方が夢も希望もあるさ。命の危険も増えるけどな」
隼人のぼやきを耳にした師匠がそんなことを言った。今の組合方針では一攫千金と名声はここでは得られないそうだ。
ビルダーズ2沼から抜け出せない…………。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
当時のあとがきコメントを見ると時代を感じるなぁ。




