383話 廃墟の中②
もうちょっと欲をかくことにした。
だが先ほどの二の舞は怖い。今度は保険をかけておこう。
「保険をかけておくね」
そう断ってから詠唱に入る。
「綴る、基本、第六階梯、変の位、遅延、任意、同期、待機、【遅延】、綴る、拡大、第七階梯、転の位、記憶、瞬間、瞬転、移動、空間、強化、発動。【転移】」
問題ないようだったのでもう一回同じ詠唱を行う。
発動遅延を仕込んだ【転移】を二つ用意した。これで任意のタイミングで無詠唱で発動できる。
便利そうな魔術であるが欠点もある。魔術が待機中の時に他の魔術を使うと暴発する恐れがあるので本日は打ち止めである。
今回は致命的失敗はなかったようだ。
しかしなぜ急に致命的失敗が多発したのだろうか? 統計を取ったわけではないから何とも言えないけど平均値をとると案外普通だったり?
たまたまで片付けてもいいのだろうか?
疑問は湧いてくるけど今はそれでころじゃない。水没する前に漁るもの漁らなければ!
「行こう」
珍しく長々と落ち込んでいる和花に左手を差し伸べる。和花が居なければ危険もなかったかもしれないが儲けもなかった。特に[豊穣の剣]はこれからの予定を大きく変えてくれるほどの逸品である。
「……うん」
和花は僕の手を取り弱々しく笑みを浮かべる。
最下層の入り口である大扉は衝撃のせいなのか開いていた。
最初に異変に気が付いたのは和花であった。
「樹くん。アレ」
そう言って指し示すのは飾り気のない混凝土の壁。ただし無数に罅が入っている。自己修復するはずの太古の施設であることを考えると――――。
「ここも長くないね」
「うん」
僕らの目の前には一本の通路が伸びており左右にそれぞれ扉が三つずつ。正面には大きな両開き扉がある。よく見かける構造だ。
「これまでのパターンだと正面の両開き扉以外は外れかな?」
「そう思う」
和花の返事にも張りがない。冒険者家業である以上は大きな負傷などはよくあるケースだし結果論だけど大きな得をしたんだから良いじゃないかと思う。
そうは言っても目の前で致命傷を負った瞬間を目の当たりにすれば、とは思わなくもない。
念のため罠を警戒しゆっくりと摺り足で移動する。2サートほど進んだ時だ。殺気のようなもの感じ右手が腰の光剣を抜く。
振りぬく途中で何かと激突する。
しかし周囲には何もない。ただ結構な力で光剣を押し返そうとしている。こんな状態でも姿が見えないという事は、不可視の追跡者しかいない。魔法で透明化した場合は透明化を維持するのに精神の集中が必要で大抵は攻撃すると効果が解けてしまうからだ。
相手の方が力が上でありこのまま力比べでは埒が明かない。牽制の為に前蹴りをすると急激に圧がなくなる。回避されたようだ。だが、これで相手の居場所が分からなくなった。
さて、困った。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




