382話 廃墟の中①
「――、樹くん」
和花に呼ばれて意識が覚醒した。膝枕をし僕に何度も声をかけていたようだ。
「ごめん。何があった?」
そう尋ねつつ思い出そうとする。しかし記憶が飛んでいるのか直前までの行動が思い出せない。
一旦記憶を掘り返すのを諦め周囲を見ると最下層の広場のようである。【光源】の明かりによって周囲が照らされている。
上層からの階段は瓦礫によって完全に塞がれている。ただ水が漏れている事から上層は水没――――。
「思い出した!」
そうだ。
アドリアンらをこっそり見送った後研究所をゆっくり調べようと未調査の最下層へと降りていく途中で激しい音と衝撃で――――。
「ところで和花は怪我とかは?」
「……」
「和花?」
「ごめんなさい。私が無理してついてこなければ……」
やや声を震わせ奇麗に整った顔を陰らせている。
呪的資源が余裕がなかった和花は【転移】で飛べなかったのだ。先に帰還させておくべきであった。頭目としての僕の判断ミスである。【転移】の魔術は他者に施すことも可能であるが基本的に効果の拡張が出来ず一回の詠唱で一人しか飛ばせない。
呪的資源に余裕があった僕が【転移】で和花を飛ばすはずだったのだが運の悪いことに瓦礫が頭部に命中し階段を転げ落ちてしまったのだ。
あれこれ言ってもすぐには恐らく自責の念のから回復しないだろう。話題を変えるか。
「和花は怪我とかない?」
「樹くんから預かったコレのおかげで私は無事よ」
そう言って念のためと思って貸し出した腕輪、[力場の腕輪]をみせる。作っておいて正解だったようだ。
そういえば瓦礫の直撃と転落のダメージのわりに痛みとかない。頭部に触れてみる。傷らしきものもない。
そんな僕を見て和花がとんでもない事を口にした。
「【致命癒】を施したから大丈夫よ」
想像以上に酷い怪我だったという事か。だが、待てよ。呪的資源は? 和花は大きな魔術を使うだけの呪的資源がなかった筈だ。
答えはすぐに出た。
「これよ」
そう言いて空になった小瓶を見せてきた。ラベルを見ると[鎮静の水薬]と記されていた。
納得いったが無茶をしたもんだと思ってしまった。この水薬は脳に掛かった負荷を軽減する効果によって呪的資源を一時的に回復させる効果があるのだけど、とてつもなく不味いのだ。更に中毒性が高く短時間で複数服用すると激しい中毒作用があるのだ。
「よっと」
いつまでも膝枕を堪能してても不味いので起き上がる。恐らくだが大きな隕石を落とす戦略魔術である【魔流星】にて島ごと研究資料の残りを消し去るつもりだったのだろう。魔術の性格上思いついてすぐに使えるものではないので最初から研究所を消し去るつもりだったのだ。
さて、脱出するにしても上部構造物が完全に破壊され瓦礫を退けたとしても大量の水に呑まれるだけだ。瓦礫の隙間から水が漏れてきている。遠からず水没するだろう。
【転移】で二人して脱出するだけの呪的資源は残っている。調べてから戻るかこのまま帰るか?
成果はあったのだから欲をかかなくてもいい気はするが……。
和花の方に視線を移すと『任せる』という感じのようだ。
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