幕間-18
幕間-18としてますが幕間-18の続きです。
偉丈夫が思い悩んでいると不意に背後に見知った気配があった。
「呼んだ覚えはないが何か用か?」
後ろにいるであろう気配の主に対し振り返りもせず言い放つ。
「旧知の仲なのに随分と冷たいじゃないか」
そう声音は非難というより無視されなかったという安堵にも似ていた。
「旧知の仲残りカスのような存在だろうに」
「ひどい言いようだ」
そう言うと気配を殺していた男は声を押し殺してクククと笑う。
「お悩みのようだったので、取引を持ち掛けにきたのだよ」
悩みの内容は知っているぞと匂わせた言い方をする。
「最後の力を振り絞る代償として俺に何を願う?」
偉丈夫の方も旧知の人物が棺桶に片足を突っ込んだ状態であることを理解していて面倒事を持ってきたなと思う。
「やはり君に隠し事は無理か。実は僕の黒き勇者が暴走していてね。こちらの想定外の行動ばかりで困っているのさ」
黒き勇者が南方でテロ行為を行っていることは知っている。彼曰く『人はすべからく平等でなければならない』を謳い強制的に人口の上澄みの殺して回り資産を貧困層に投げ与えているのだ。厄介なのは平等とは出自、財産。才能、名声などだ。
黒き勇者の暴論は『全員で底辺になろうぜ』なのである。
偉丈夫はその考えに全く同意できなかった。人はあるゆるものが不平等であると考えている。ないならないで手持ちの手札で足掻けというのが偉丈夫の考えである。彼は出来ない言い訳ばかりを口にする存在を唾棄する。
「で、お前の黒き勇者を俺の手駒に倒させたいと?」
「そうだよ」
なんともない様に答えるが黒き勇者の正体を知って樹がどういう反応を示すか……。
偉丈夫が悩んでいると、
「どうせ新・白き王と対決させる気なんだろう? その予行練習だと思えば――――」
偉丈夫は背後の人物に最後まで言わせなかった。強力な殺気を放ったのだ。
「こわい。こわい」
その声音はとても怖がっているそれではなく寧ろ楽しんでいるかのようであった。
「……黒き勇者の実力はどんなもんだ?」
暫く沈黙してから偉丈夫が問う。
「新・白き王に比べて素体の能力が劣ってたんだよね。控えめに見て吸血鬼の盟主と言ったところかな。十分討伐対象だろう?」
その口調は大したことないだろうと言わんばかりである。ならお前が始末しろよと言いたいが押し黙った。恐らく新・白き王と同じ邪法を施したのだろう。あの邪法の利点は最強の使い魔を得ることだが、欠点として術者が倒すことは叶わず、維持に莫大な呪的資源を割かなければならないことだ。
そして――――。
「なんだ簡単だな。呪的資源がほとんどないであろう主人のおまえを倒せば万事解決ではないか?」
術者が死ななければ不死身の存在なのである。ただ依頼を持ってきたということは不完全な存在なのだろう。
吸血鬼の盟主くらいの強さと言うことは虹等級の冒険者一党と対峙して苦戦はするが十分勝てる程度の強さと言うことである。
「確か伝聞だと魔力銃と格闘術がメインだと聞いたが……」
「[鬼神闘拳]のような技を使うよ。あれほど脅威ではないけどね」
背後の男からすぐに回答が返ってきた。[鬼神闘拳]のようなということは投打極を主とする無手の技だ。得物を持つ分だけ樹の方が有利に思えるが邪法により人外の肉体を得たとなると勝負の行方は読みにくい。
黒き勇者が邪法である【不死の従者】を受け入れたということは倒す以外にその捕らわれた魂を救済する方法はない。
樹は殺人をやや忌避する傾向にある。殺す以外に救う手がないと知って躊躇なく殺れるのか。これは生贄が必要になるかもしれんなと思ってしまうのであった。
「判った。とにかく誰かが倒せばいいのだな?」
「そうだね」
「貴様の真名に誓えるか?」
「誓おう」
こうして契約はなされた。真名による誓いは彼らにとって自身の尊厳に誓うものでありこれを違えることは霊格を貶める行為にならない。
ただ偉丈夫は一つ懸念材料があった。果たして摩耗しきった霊格に未練があるのだろうか、と。
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幕間-19を終えてから382話なります。




