38話 僕が守られるの?
瑞穂の休憩が終わり、魔法の適性を調べるとかで、僕らの適性試験の時にも行なった瞑想のようなよくわからない行為が始まる。今だとそれが魔力の伝達経路やら伝達速度やら伝達量を調べたり精霊力を知覚力を調べている訳だが…………。
僕らは結果は聞かずそのまま宿屋へと戻る事にした。多分瑞穂はすごい才能の塊なんだろう。和花もそんな感じだし、やっぱ僕みたいな五男坊の出涸らしじゃ釣り合わないのかねぇ? いつか足手纏いとかになってしまうのだろうか?
思考がネガティブな方にいってたのが顔に出てたのだろう。横を歩いていたはずの和花が僕の前に回り込み上目遣いで見つめてくる。
「また考え事? 樹くんは無駄に考えすぎだと思うよ。もっと気楽にいこーよ」
ご機嫌な笑顔でそう僕に語りかける。
まー確かに深刻ぶったり変に自分を貶めても何も良いことはないね。
「そういえば先生とは何を話し込んでいたの?」
再び左横に並び此方を見上げながら歩き出す。
内緒にしろと言われているだけにどー躱そうか…………。
思案していると左腕を抓られた。
「先生に他言無用って言われてるならそう言ってよ。別に無理に教えてとか言わないから」
そう言ったあと言葉を切りこう口にした。
「でも適当な嘘で誤魔化したりはしないでね。約束だよ」
そう言うと僕の返事を待たずに左手を取ると勝手に指切りをして離れていった。
しかし物語の主人公のように神の如き異能かゲームのイージーモードでもないと難しい話だよなぁ。単なる一般人があまり考えこんでも時間の無駄かー。
世の中なるようにしかならんし気持ちを切り替えよう。
文明レベルが極端に違う風景を眺めつつ時間を潰し夕飯の時刻になる頃に一同が宿屋の食堂に集まり夕食をいただくこととなった。
この宿屋はそれなりに高級だが一時滞在の客が多く食堂は特に特に贅を尽くしたーみたいなメニューはなかったのだが、久方振りに牛肉にありつけた。360グリムのヒレ肉のステーキが出てきたときには驚いた。
会計額を聞いて更にびっくり。
六人で金貨一枚でわずかに釣銭が発生した程度の金額を請求されたのである。
まー払うのは師匠なんで問題なし。
「ご馳走様でした」と口々に礼を述べて当てがわれた部屋へと戻る。部屋割りは健司と隼人で一部屋、僕と師匠で一部屋、和花と瑞穂で一部屋となっている。
程なくして師匠が健司と隼人を伴って出かけるようなので、僕も同伴しようと思い身支度を始めると、
「樹は小鳥遊とイチャコラしてれば良いんだよ。俺らはこれから綺麗なおねーさんのいる店で呑んでくるんだから」
「そうそう樹は邪魔だ」
なぜか健司と隼人に激しく拒否られた。
綺麗なおねーさんと飲む店とか一度くらいは行ってみたかったんだけどなぁ。
仕方なく和花達のいる部屋で暇でも潰そうとか思って行ってみると何故か男子禁制とか言われて入れてもらえなかった。
結局一人寂しく寝るのであった。
師匠は割と早く戻ってきたけど、健司と隼人は翌朝になって馬車で送迎されてきた。
妙にツヤツヤというかニコニコというか…………ナニがあったのかは想像に難しくない。
大人の階段上るときは三人一緒だ! と誓った仲なのに! まー嘘ですが。
立食形式の朝食だったのだが、異世界感がまるでなかった。たぶんどっかの並行世界の地球の欧州あたり料理人が召喚されたんだろう。改めてこの世界が異世界人によって文化ハザードが結構進んでいるんだと実感した。
食材も料理も見慣れたものが多く異世界知識でひゃっはぁぁぁぁするのは難しいなと隼人と二人で妙に盛り上がっていた。
「そうだ。瑞穂の適性とかどうだったんですか?」
うちの一党に加えるのであれば配置が何処になるのかで最後の六人目の人の職能の募集要項が変わってしまう。
「昨日もチラッと言ったが後衛型の斥候だが、魔法の適性も高い。惜しむらくは真語魔術が活舌があまりよくなくて中級まで使えるかどうかってくらいか。精霊魔法の適性は非常に高い」
「後衛型となると武器は飛び道具になるんですか?」
ゲームだとそんな感じになるよね。
ところが、
「まー二か月できっちり仕事できるように教育しておくから期待して待ってろ」
ニヤリと笑みを浮かべ師匠はそう言った。
瑞穂までウンウンと無言で頷いている。もう師匠と打ち解けたのか。
「なら最後の一人は聖職者ですかね?」
そう言ってきたのは隼人だ。確かにゲームだと足りないのは回復役だよね。
「聖職者と言っても神官か神官戦士かによって樹の配置が変わってくるな」
師匠の言いたいことはこういう事だろうか?
「よーするに後ろに控えている癒し手か、がっちり装備を固めた戦闘もできる癒し手って事ですか?」
「その認識で構わない。後は対不死者の専門家の側面もあることは忘れないようにな」
そーいやそうでした。
「ただ魔法使いと呼ばれる存在は需要も高いが絶対数が少ない。一番数が多いと言われている聖職者ですらいない一党も多いからなー。見つからないときは魔法の水薬ガブ呑みで頑張るこったな」
どーやら紹介はしてくれないらしい。
「それじゃそろそろ支度して迷宮都市ザルツへ行くか」
師匠のその一言で朝食は終わり各々支度の為に部屋に戻っていく。
僕も戻ろうと思ったときだ。右袖が捕まれる。左には和花がいる。という事は右袖を掴んだのは瑞穂か。
「何かあった?」
そう問いてみたものの俯いて無言で首を振るだけだ。いつもの感じではある。
「わたしも…………から」
何か小声で宣言したが聞き取れない。古典ラノベの難聴系主人公じゃあるまいしとか思ったけど、蚊の鳴くような声と言っていいくらい聞き取りにくかったのだ。
「ごめん。聞き取れなかった」
僕がそう言うと顔を上げジッと僕の目を見てこう切り出した。
「わたしも樹兄さんの事を守るから!」
え? 逆じゃないの?
左にいる和花が声を殺して笑っているあたり何かを吹き込んだに違いない。
「君らなんか結託してる?」
そう突っ込んでみたところ二人して頷きあって
「「内緒」」
そう宣って部屋へと駆けていった。
まー悲壮感漂わせてるよりはいいかー。
これからの迷宮都市ザルツでの生活はどうなるんだろうなーなどと思いを馳せつつ支度の為に部屋に戻るのであった。
これで一章がおわりだー。
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