376話 後始末①
そういえば和花は? 慌てて振り返ると目立った外傷は見られなかった。
「良かった」
思わずそう声を漏らしてもらう。
「良くないよ。毛先が焦げたちゃったよ。見てよこれ」
苦笑いしつつ焦げた毛先を見せてくれる。この程度の被害で良かったと思うべきかな。保険代わりの[力場の腕輪]は物理攻撃に対しての保険でしかなかったから運がよかったというべきか。
気分も落ち着いたことで周囲を見回すと【火炎放射】で周囲の死体は炭化していた。アドリアンらもダメだったかと思ったのだが……。
「そういえばどうしてそんな被害が軽微なの?」
新装備の鍔広のとんんがり帽子や長衣の効果だろうか?
「それはですね――――」
妙に勿体ぶって一度言葉をきる。
「精霊力確保のために同伴させていた水乙女を開放してそれを媒介に【|水の精霊壁《バイム・ウォール”ウンディーネ”》】を前面に展開させて難を逃れたのよ。あそこの奴らが無事なのは単に運よく壁の内側に入ってたからね」
和花の機転でアドリアンらは救われた事になるのか。しかし、よくあの短時間でとは思う。
「さて、起きてるんだろ?」
僕は狸寝入りしているアドリアンの向かってそう声をかける。そもそも両手両足を封じたところで一部の精霊魔法の行使には影響がないので、こちらに害意があるならいくらでも魔法をぶち込む余裕があったはずである。
「ま、流石に騙せないか……」
そう呟くと上体を起こし結束バンドで固定した両腕を突き出す。外せってことだな。出し抜かれる可能性もあるしもう一人の長槍使いは放置でいいならという条件で解放する。
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「しかしなんでまた下っ端なんかやっているんだ? これまでは仕事の成果は出しているだろ?」
過去に僕らは遺跡で何度かかち合ったことはある。だが彼らはなんだかんだで目的のブツを得てるはずであり、仕事は完遂しているはずである。氏族の安住の地とかいう存在しないモノを餌にいい様に使っているのではないのか?
「理由は知らぬ。ただ我らは氏族の安住の地を得るために従うの――――」
「あんた馬鹿なの?」
横で聞いていた和花がアドリアンとの会話に食い気味に割り込んできた。
「馬鹿だと?」
「どーせ非戦闘員を人質に取られてあるかどうかも分からない安住の地とやらを餌に死ぬまで飼い殺しされている貴方たちが馬鹿でなくて何が馬鹿なのよ?」
和花が煽るだけ煽ってからちゃっかり僕の後ろに逃げ込む。
「貴様!」
和花に煽られて激高しかかるもここで揉めても仕方ないということは理解できるようでグッと堪える。
「ひとつ聞きたいんだけど、他の闇森霊族を頼るのはダメなのか?」
「闇森霊族の安住の地である闇の森は数が少ないうえにどこか他の氏族の所有地になっている。争って勝ち取れるならとっくに実行している」
それくらい彼の氏族は弱体化しているということか。
「少数氏族に分けるくらいには広大な闇の森があった場合は? 頭を下げて頼み込めるか?」
正直これで他者に頭なんぞ下げられるかとか言い出したら見捨てようと思う。
「知り合いがいるのか?」
「直接面識はないけど、知り合いが旧知の仲だ」
アドリアンは逡巡したのちに紹介して欲しいと頭を下げるのであった。
『プライドだけは高い闇森霊族が頭を下げるなんてよっぽどの事ね』
和花が【戦術念話】でそんなことを口にする。一応はアドリアンに聞こえないように配慮したということだろうか。
奥の部屋を探索したいが、彼らの氏族とどうやって合流するかなどの段取りを決めなければならない。
なんか状況に流されて脱線しまくってるなぁ……。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
・精霊魔法は攻撃指示に限れば対象を指示するために片手が空いている必要があります。
・竜牙兵は燃え尽きています。




