371話 偵察行②
下の階層へと降りるか念のため部屋を探るかで迷っていると和花が、
「飛ばそうか?」
と提案してきた。ここでいう飛ぶとは【魔術師の眼】と呼ばれる魔術を使って偵察するかという意味である。
呪的資源を消費してまで行う価値があるのか? 先行者たちがここへどのような目的で来たのかが知りたい。占拠か盗掘か? それによってこちらの対応も変わってくる。
お願いするとすぐさまに詠唱に入った。
「綴る、付与、第四階梯、探の位、眼球、複製、滞空、空飛、遠隔、視野、共有、発動。【魔術師の眼】」
詠唱の完了とともに万能素子によって作られた眼球っぽいものがふよふよと滞空している。それは和花の意思によって右の階段へと飛び下の階層を偵察していく。
こうなってしまうと和花はこの場から動けないので最低限の警戒はしつつも待機となる。
どこかに地下施設へと資材を運び入れる昇降機があってもいいはずなのだけど。
やっぱりこの両開き扉の奥だろうか?
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「効果範囲一杯まで見てきたから報告するね」
そう言って説明を始めた。
この場所は五層構造で迷宮の様な拡張処理はなされていない事。通路はどこも共通で幅、高さともに1サート。特に複雑な構造ではなく地下二階は居住区画で荒らされた形跡はなし。地下三階は研究施設のようで先行者が物色していた形跡はあるが目的のものがなかったとみられる。
余談であるが目的にモノが見つからなかった腹いせなのか八つ当たりした形跡があったとの事だ。
地下四階で先行者の痕跡を発見。擱座した多脚戦車が二体と赤肌鬼らしき遺体が八体み豚鬼と食人鬼の遺体が一体ずつあったという。血痕らしきものが床を転々と奥まで続いているので負傷者がいる模様。奥に両開き扉があった。有効範囲を出てしまうので四階は此処まで。
地下五階は階段を降りると左右に大きな扉が存在する。開けられた形跡はなし。
との事であった。
「放っておいても勝手に死ぬか出ていくんじゃない?」
それが和花の感想であった。
「目的は仮拠点の偵察だからそれでも良いんだけどねぇ。正直って想定していたより地形が使いにくいし」
そうなのである。【幻影地図】で確認した地形と実際の地形の差異が酷すぎて結構迷っているのだ。
まず魔獣の狩猟場と呼ばれる平地を三方から取り囲む山々だが【幻影地図】では375サートほどであったが、実際には1サーグ越えの険しさである。しかも大陸側はほどほどに勾配がある山であるが裏側の狩猟場側は切立った崖かと言わんばかりの勾配である。
湖や目的地の島も小さい。さらに木々に埋もれた湖のほとりには研究所が存在する。
街道が存在しうねった峠道で山を越えるだけでも数日はかかる。そのあいだ襲われるリスクを考えると仮とは言え拠点とするのは危険極まる。
「樹くんの話を聞くと次の候補地に行こうかってなるね」
「そうなんだよ……」
だが、和花は沈黙した僕の意図を汲んだのかこう続けた。
「もしかして結社に一泡吹かせたい?」
そうなんだよね。僕は拉致られた挙句に【禁止命令】をかけられたことを忘れないぞ。絶対にだ。
「なら進もうよ」
「相手は半数に減っているとはいえ主力はまだ残っている。危険だよ」
想定している敵であればあいつが居るはずだ。熱砂の砂漠での実力を鑑みれば強敵に間違いない。
「なら、これだけは厳守して。逃げろと言ったら躊躇なく【転移】して」
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