37話 僕が守るしかないのか?
「「「でけー!!」」」
停車中の魔導列車を間近でみた僕らは声を揃えて叫ばずにはいられなかった。
まず車輛一輌からしてデカイ。
幅は1.5サート、長さ7.5サートと日本で見かける電車の倍以上のサイズである。旅客車が10輌に貨車が20輌つき、前後に駆動車1輌ずつの32輌編成となっている。この列車が東方北部域からこの東方南部域を通って中原、西方西部域まで合計およそ8513サーグをおよそ一か月で走り抜けるのである。
因みに交易路を徒歩で移動した場合は8025サーグほどあり、途中で全休などを挟んで早くても1250日ほどかかる計算だ。
だが物流の主力はやはり海運なのだそうだ。
そういえば線路などの維持はやはり魔法か何かなのだろうか?
分からなければネットで検索の感覚で師匠に聞いたみた。
そして返ってきた回答は、古代帝国時代の都市機能や魔導列車などは各種魔法装置で維持管理されており、その機能を生かすのに万能素子結晶が必要なんだそうだ。
今後は数多くの万能素子結晶を納めれば銅等級くらいまでは昇格できるとの事らしい。銅等級あたりになるとプロと名乗っても恥ずかしくないレベルだそうだ。
駅での商人同士のひと騒動があったのを見た師匠が割り込んで何やら解決してしまう。その後は裕福な商人向けの宿屋でチェックインを済ませる。
「夕食は宿屋の食堂で済ませるのでそれまでは自由時間だ」
そう言って瑞穂を連れて出かけようとする。
「師匠。どこ行くんです?」
まさか師匠が…………とは思いたくないが聞いてみた。
「瑞穂の適性検査の為にちょっと開けたところに行ってくる。見学するか?」
「いえ、色々見て回りたいんでいいです」
すいません師匠。てっきり人気のないところに連れ込んであんなことやこんなことを強要するんじゃないかとちょっぴり疑いました。ほんのちょっぴりですよ?
健司と隼人は回りたいところがあるそうなので僕は和花と連れ立って駅舎街の散策に出る。
駅では先ほどの騒動が片付き貨車から荷を下ろしている。この無蓋貨車には大変珍しい鉱石を積んでいたのである。それも大量に…………。
揉めた原因は商人が珍しい鉱石を大量に買い付けたのだが、鍛冶匠合が「クズ石なんぞ買わん」と交渉にすらならなかったので商人が一方的にキレて暴れていたのである。
それを見た師匠が貨車へと上がり、鉱石を手に取ってみるとニヤリとして言い値で全部買い取ったのである。
積み込みの監督をしている樽型体形の人…………上位地霊族のバルドさんだ。
「小僧。興味でもあるのか?」
僕らの存在に気が付いたバルドさんが声をかけてきた。丁度いいのでなぜ買い取ったのか聞いてみることにした。
「このクズ石呼ばわりされた鉱石は神覇鉱というワシら上位地霊族にしか加工できん鉱石なんじゃよ」
なんでも高炉では温度が足りず不純物だけしか溶けないそうだ。バルドさんの持つ神の炉でないと鋳塊に出来ないとの事だ。
材質としては耐熱性と硬度と耐久性が最高水準という矛盾した存在であり、錆びないうえに魔戦技の伝導率も最高水準で、これで作られた刀剣類は竜の鱗ですら斬れるんだそうだ。普通の金属鎧なんて抵抗すら感じずスッパリ斬れるらしい。
防具にした場合はまず普通の刀剣では切断されない。また衝撃吸収力も高く鈍器等にも効果が高いとの事だ。ファンタジー素材のオリハルコンかアダマンタイトって感じだろうか?
なんかすげーするい装備なんだけど…………。
「これだけの鉱石でどれくらいの鋳塊が作れるんですか?」
そう聞いてみると貨車の三割程度の大きさになるらしい。それでも結構残るんだなーと思っていると、
「ヴァルザスからの許可が出たら武具を拵えてやろうか?」
と言ってくれたので、「その時は是非」と答えておいた。
バルドさんと別れてフラフラと街を歩いている。
食品加工場を過ぎ、広大な倉庫街を抜けると開けた場所にでた。どうやら街から出てしまったようだ。
少し離れたところに師匠と瑞穂が居るのが見える。この街自体はあまり見るべきものがないので夕飯まで見学でもしてようと思う。
「なんだ。結局見に来たのか」
僕らに気が付いた師匠がそう声をかけてきた。瑞穂に休憩を言い渡して僕だけを招く。
「あの娘は日本帝国で婚約者は決まってたか?」
唐突にそんなことを聞いてきた。
え? もしかして本気で狙ってるの? とか思ったのが顔に出たらしく拳骨を落とされた。
しばし頭を押さえて悶絶した後に師匠がこう切り出した。
「武家は末席まで血統操作で結婚相手を決められてるだろう?」
当然師匠も知っている。
「そうですね」
何が言いたいのかわからないけど相槌を打っておく。
「あー確か珍しく12歳で結婚相手が決まったとか、中等部卒業と同時に挙式とかで家でも話題になりましたよ」
普通は14歳から15歳くらいの間にこっそりと決まって告知されるのが17歳くらいって言うのが普通なんだよね。
「ふむ…………。戻っても大差なしだが…………それでも人道的に…………」
師匠がそう小声で呟いた。一部聞き取れなかったがなんか不穏なことを言った気がした。
「これからする話は、本人にも説明するがそれ以外は俺と樹だけの秘密だ」
そう前置きして師匠が語りだした。
適性検査はある程度終わっていて、あとは懸念案件の確認のみだと告げられた。
肉体的には手先が器用で反射神経が抜群に良い。知覚力も記憶力も優秀だ。半面体力や筋力は年相応であり残念ながら伸びしろがあまりないとの事だ。
恐ろしく視力がよく、動体視力も優れていて後衛型斥候向きだそうだ。
だが問題はそれではない。
「恐ろしく魔戦技と魔導機器との親和性が高い事だ」
どういうことだろう?
「それが何か拙いのですか?」
「男なら喜ぶ奴もいるんだが…………。こっちの世界の王族や貴族の継承の話はしたっけか?」
師匠に問われてちょっと記憶を探る。
「あーありますね。確か魔導騎士を扱える騎士でないと継承権を剥奪でしたっけ?」
あれ? まさか…………。
「同じような素養の男なら種牡馬だし女なら繁殖牝馬扱いだ」
師匠はそう吐き捨てるように言った。
嫌な予想が当たってしまった…………。
「人権のなんてモンが軽すぎるこっちの世界よりはまだ元の世界の方がマシかもしれん」
何が言いたいか分かってきた。
「僕に瑞穂を帰るように説得しろって事ですか?」
師匠は首を振って否定する。
「あの娘は意外と根性も据わっている。まず戻らんよ。戻りたくない理由は婚約者がよほど酷い奴なのか、どっかの誰かと同じで既に意中の相手がいるのか…………」
どっかの誰かねぇ…………。どこにいるか判らない同級生とかかな?
これはそれまで僕が責任取って守ってやれよって流れかー。
「わかりました。自立できるまでは僕が責任をもって守ります」
そして安定の終わらない地獄…………。
だが次こそ…………。
もっと文章をきれいにまとめる能力が欲しいです。




