370話 偵察行①
当然であるが内部は暗い。精霊使いでもある和花は暗闇でも赤外線視力で暗闇でもそれなりに周囲を認識できる。受動的式の暗視装置に近い見え方と言えばいいのだろうか。そのためか完全に暗いと何も見えなくなる。一方で僕は明るいところからいきなり暗いところに入った事で目が暗闇に慣れておらずほぼ見えない。
面倒なんで魔術で対応する事にした。
「綴る、拡大、第六階梯、探の位、強化、増光、視力、受動、能動、熱感、保護、補正、発動。【暗視】」
魔術が完成すると僕の見る世界は一変する。白と黒の濃淡で再現された詳細な風景と言えばいいのだろうか? 色がない事以外は普段通りと思ってよさそうだ。
手信号で”前進”と合図し慎重に歩を進める。和花は斥候としての訓練はしていないので急がせると音を立てずに歩くことができないからだ。
一人だったら【飛行】で空中移動し、【隠蔽】で透明化するという安全策もあったのだが仕方なし。同伴させると決めた以上はその条件下で最善を尽くすのみだ。
開口部を通り2.5サートほど直進すると天然洞窟風に偽装されたエリアは終了し混凝土造の通路となる。
通路はまっすぐと伸びており左右に片開き扉2つずつ存在する。扉はいずれも左吊元の外開き扉だ。ドアノブが右側っていうのが嫌だなぁ。
気になる点は足跡がない事だ。長年放置していたであろうにしては奇麗すぎる。迷宮かさせているのか定期的に掃除担当の魔導機器が存在していて巡回しているのか?
一応気にかけておこう。
扉に関しては研究所か住居に罠を仕掛ける奴はそうそう居ない筈だからいきなり開けても問題ないとは思うけど、先行した奴らのどう対処したかだよねぇ。
「どうしたの?」
扉の前で唸っているの僕に和花が小声で声をかけてきた。瑞穂であればさっさと扉を調べるだろうから動かない僕の行動が気になったのだろう。
「開けるか否かで悩んでる」
そう言ってから可能性の話を続ける。すると、
「ちょっと私に任せてくれる?」
よく判らないが扉から離れると和花は[魔法の鞄]から拳大の石を四つ取り出しそれぞれの扉の前に配置する。
「ああ……なるほど」
何をやりたいか分かった。
そして思った通り和花は詠唱に入る。
「綴る、付与、第三階梯、付の位、触媒、従僕、石像、目標数、発動、【石の従者】」
魔術が完成すると拳大の石はうにょうにょと質量保存の法則を無視して巨大化しやがて人族サイズの石像となる。
そして四体に対して命令語で「動くな」と命じる。
何をしたかと言えば石の従者の自重を以って外開きの扉を塞いでしまったので。効果時間が半刻しかないので余裕があるときに調べる時には単なる石に戻っている。
呪的資源は使ってしまったが、万が一にも後ろから不意打ちとか避けたいのでこの対処はアリかなと思う。
取り合えず先に進むことにする。
通路に沿って進むこと5サートほどだろうか。T字路に遭遇した。正面に大きな金属製の両開き扉がある。態々ご丁寧に下位古代語で[資材倉庫]と彫られたプレートがある。
右を向けば下り階段だ。左は片開き扉であり、[準備室]とプレートに彫られている。先行した者たちはどうも立ち寄らずに下に降りたのだろうか?
さて、どうするか?
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




