366話 経過報告
切り分ける場所が見つからないのでちょい長め
「あれ? 樹さん早いっすねってみんな来たのか」
ハーンと五班の面々が軽い挨拶を交わす中、僕は周囲を見回す。以前設置した場所と異なるからだ。
「ここはどこだい?」
質問してみたものの部屋の雰囲気が大型魔導艦にそっくりなところを見ると恐らくは――――
「潜水母艦の中っす」
やっぱりかといった感じだ。ハーンには細かい指示は出していなかったが、僕でも同じことをしたであろう。
例の島の地下船渠に自動工場が併設されているが、供給される万能素子が少なすぎてあまり機能しないのではと思っていた。
一方で潜水母艦にも補給整備機能として自動工場があるのは分かっていたので島から少し離れた海上まで移動させれば少しは機能するのではと思っていたのだ。
「例の島を覆う【幻影】なんすけど、周囲10サーグが有効範囲って事でギリギリのあたりに居るっす。ただ――――」
それでも最盛期の技術を再現するには圧倒的に万能素子が足りないとの事であった。
非武装艦なので武装はいいとしても防護と生活レベルだけはある程度のクオリティは保ちたい。そう指示すると、
「なら一番小型の次元潜航艦を最初を艤装しますんでそいつを基準としましょう」
と言って詳細の説明を始めた。
その次元潜航艦は正面から見るとやや扁平な形状で後部にある艦橋部も小型化されている。全長が10サートとこの時代の船基準でみると平均的な複層甲板大型帆船より小さい。
ただし船内は空間拡張の処理が施されており居住区画は最低でも大型魔導艦を基準とするとのことだ。
また船体の半分近くは艦内格納庫となる。前甲板に開閉扉があり魔導騎士の収納には向かないが魔導歩騎を運用するには良さそうなサイズである。
僕が一番気にしている問題である次元潜航から地上に顔を出す際の問題も考えねばならない。下手に見つかると何処とは明言しないが取り上げられかねない。
創作で定番の『秘密にしておいて』はまず通用しないし大金が転がり込む情報を大人しく黙っている者は稀有であろう。
そのために共同体員には魔法の契約書に血判を押させるわけだが。
実際いつ頃使えるのだろうか?
僕の問いにハーンは少し考え込んだ後、
「最速でも今月一杯は欲しいっすね」
と回答した。とにかく万能素子から部品を生み出すのに時間がかかるという。解決するには万能素子の供給量を増やすか、素材となる物質を一旦分解して再構成するかすれば期日は短縮できるとの事だ。
頭の中でマネイナ商会に物資調達を依頼したとして運び込むには[転移門の絨毯]を経由する事になる。いったい何百往復することになるのだろうか?
やはり現実的ではない。それに当然その物資の行先も調べられるだろう。
「流石に大量の物資を内緒でこっちに持ってくるのは難しいね」
ハーンが「でしょうね」と返した後、
「なら海中から引き揚げます?」
と言ったのだ。
「どういうこと?」
「二人乗りの潜航艇ってのがありまして海底での作業用の魔導機器っす」
どんな形状なのか聞いてみると、角が丸まった箱形であり複数の安定翼が突き出ている。船体前方下部から延びる一対の作業用操腕に後端の可変式水流噴孔推進機関を二基の他に補助推進装置として鱗状微細振動推進装置がある。全長3サート
、全幅1サート、全高1サートというサイズである。冷蔵庫や簡易トイレが付属で潜航時間は最大で九刻との事だ。僕の脳内イメージとしては深海探査艇である。
「ほぼ完成した状態で保管されていたので整備点検で一日、操縦訓練に二日ほど貰えれば行けるっすよ」
ならそれでいくかと思い六人に指示をだす。
なんだかんだで話は弾み気が付けば一刻を過ぎていた。例の仮拠点候補地への偵察行の事を忘れそうになる。
「僕は所用で出かけるけど後は頼むね」
そう言い残して[転移門の絨毯]で事務所に戻る。
「さて……」
一度試してみたいことがあり【魔化】された白い布を取り出し床に敷く。
そして【幻影地図】の魔術を発動させ魔獣の狩猟場を拡大する。
ほぼリアルタイムの画像なので【転移】のよく知る場所という条件に適合するはずである。
「綴る、拡大、第七階梯、転の位、記憶、瞬間、瞬転、移動、空間、強化、発動。【転移】」
「あれ?」
呪文に失敗はなかった。考えられる原因はこの魔獣の狩猟場が例の島と同じで【幻影】で実際の風景と違うものを見せられているパターンだろうか?
そういえばアルマが島の位置が地図と違うと言っていた気がしたな……。
【幻影地図】を拡大して観察すると交易路から魔獣の狩猟場へと伸びる街道が中途半端な位置で途切れているのを見つけた。
「ここが【幻影】の境界かな?」
ダメ元で再び【転移】の詠唱を始める。




