360話 クラン会議⑤
ちょっとどこで切るか判断がつかなかったので今回は長め
「三人とも忘れた? 僕は[身代わり人形]の呪いを受けているってことを」
この呪いがある限り僕は高度2500サートから紐なしバンジーを決めても無傷である。緊急脱出の対策もしてあるので同伴者がいると却って足手まといとなるのだ。
とはいえ、そんなことは言えるはずもなく[身代わり人形]の効果で不意打ちなどにも対策出来ているとだけ伝えた。
「それならいいけど……」
和花はそういって一応納得したようだ。
アルマも何やら思案しているが意見が出てこないようである。審議官相手に噓をついてもばれるしね。ただ全部言っていないだけだ。
瑞穂はやや不貞腐れた表情して沈黙している。どうにかならないかと思案していることだろう。
だからこそ【転移】で目的地へと向かうのさ。
「最終判断は調査後とするけど概ね問題ないと考えている」
この話はそう言って締めくくった。
「共同体の業務方針だけど、基本的には護衛業務か運搬業務を主軸にするが危険地域に踏み込むような仕事はしないと思ってほしい」
「次はこの大陸の情勢だね」
【幻影地図】を南の方へと移動させる。南方の最南端である南マーリディアナリズ王国が映しだされる。
「ここは今、黒の勇者の呼ばれる人物が平等を掲げ活動している。活動内容は強盗殺人だね」
何人かが"何それ"って表情をしているが貴族や商人の財を再配分という名目で奪っている。抵抗すれば殺されることもある。さらに奴隷解放を謳っており片っ端から奴隷の隷属を強制解除しているという。現在では立派な賞金首だ。
この黒の勇者はちょっと頭がアレなのか中原産の商品が南方では数倍の価格になることが暴利を貪っているおかしい! 同じ価格で販売しろと難癖をつけているそうだ。
「こういう頭のおかしい奴に絡まれないために僕らの共同体では南方行の仕事は引き受けない予定である。次は」
そういって【幻影地図】を北方へと移動させる。
「あっ……」
ある地点に差し掛かった時、アリスが声を上げた。
「あ、もしかして」
「うん。そこは私の故郷だね」
【幻影地図】の端に焼け野原と化した箇所があった。自然崇拝者であるアリスが住んでいた森だったようだ。
「拡大する?」
「今はやめておく」
「判った」
それだけのやり取りであった。【幻影地図】を東側の方へと移動させていくとこの世界でお目に掛かれない集団の陣が存在していた。
「あれは? どこかの軍隊か? だが、どこの……」
北方の情勢としては神聖プロレタリア帝国が北方全域を更地にしたため、こんな地域に武装集団がいること自体がおかしいのである。
「これは、僕らの世界の軍隊だね」
そう、集団誘拐の報復として送り込まれた防衛陸軍のようだ。ざっと見た感じだと一個師団くらいだろうか? こんな訳の分からない地に八千人以上を送り込むとか正直って……。
「小鳥遊家当主もずいぶんと無理してるねぇ」
そう口にしたのは和花である。日本帝国は公的には魔術など存在しないというスタンスであるが、その魔術を取り仕切るのが小鳥遊家であり、恐らくだが和花を連れ戻すのが本来の目的であろう。
実を言うと和花の母親と祖母は当主に任命されるだけの素養がなかったのである。和花の高祖母に当たる小鳥遊家当主の年齢からすると和花に継がせないと自分たちの政治的立ち位置がかなり苦しくなるので焦っているのでは? というのが和花の意見である。
師匠の話だと【次元門】を何度も使うことは無理なので恐らくであるが一族総出で儀式を組んで【次元門】を維持しているのであろうとの事であった。
帰還した生徒らからの情報で和花が中原に居ることは理解しているのだろうけど、防衛陸軍の保有する垂直離着陸機の航続距離は375サーグほどであり空中給油機を随伴できない以上は現在位置から中原へ行くことは不可能である。
恐らく帰還者の話を聞いて東回りで中原に攻め込もうというつもりなのだろう。
【幻影地図】をさらに東へと移動させると広範囲に長射程の多連装ロケット車輛で爆撃しまくったと思われる跡地があった。
さらに東へと進むと――――。
「神聖プロレタリア帝国の軍団はずいぶんと戦列が伸びきっているな」
全臣民を聖戦と称して移動させておりその数は凡そ三千万である。多少打ち減らされているだろうけどね。彼らの先頭は東方北部域に入っており、進軍速度が遅いとはいえそろそろ北上する赤の帝国とぶつかるのではないかと思われる。
で、問題は赤の帝国だ。こいつらはかつての領土に取り残された臣民を救出するという名目で戦争をはじめ南進していたのだが、満足したのか最低限の兵力を置いて北進を始めたわけで……。
「彼らの領土に出入りする際に莫大な税金を要求されるんで共同体としては南部域までは仕事の範囲とする」
「それはいいのだけど……いいの?」
「いいのとは?」
「学術都市サンサーラあたりって赤と白の戦場になりそうじゃない?」
冒険者家業は無理かなと思ったんで、当時は安全な学術都市サンサーラの賢者の学院に美優を留学させたんだよね。赤の帝国の動きは完全に予想外であった。
神聖プロレタリア帝国だけなら魔導列車で逃げ出せば済んだんだけどねぇ。乗車券も送ったし。
だが未だに戻ってきていないということは乗車券が届かなかったか、何らかの事情で帰還できないかとなる。
魔導列車は臨検を受けるので見つからずに領土を抜けるには何らかの手を打たなければならない。
実は乗車券を送るために雇った郵便業務専門の冒険者が未だに仕事完了の手続きを終えていないのである。
捕まったのかねぇ?
「どうするの?」
和花がそう問いかけてきたがちょっと答えが出てこなかった。
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