354話 なんで昇格?②
「うちの共同体は教導に割ける人員が四名しかいないのですが、そのあたりは冒険者組合としてはどう考えてます?」
そうなのだ。教導員に回せる人材が和花のところの高杉三等陸尉らだけなんだよね。彼らは定住を求めているので丁度いいかなとも考えていたけど……。
「こちらとしては定員を500名ほどと考えていますので、教導員の数は最低でも10名は欲しいですね。ですので足りないようなら今月末までに探してください」
などと無茶な要求を突き付けてきた。
最悪の場合は僕ら自身が教導員として参加しなければなるまい。これは失敗したかな?
とりあえず引退を視野に入れた熟年の真面目な冒険者を探そう!
もっとも誠実な人物などは大抵は冒険者以外に転職してしまっているのだが……。
「判りました。それはこちらで何とかします。ただ……勧誘するにしても何か好条件がないと……」
冒険者組合からの指名依頼としての報酬は通常の報酬額の三倍となる。これは拘束期間が長くその間は行動の自由がかなり制限されるからだ。ただそれだと報酬としてパンチが弱い。
壮年の男性は少し悩んだ後こう告げた。
「なら銅銹等級以上であるなら任期が満了したら十字路都市テントスでの居住権を発行するというのは?」
この名を名乗らぬ人物にそんな権限が?
「失礼ながら貴方にそんな大きな権限があると?」
失礼を承知でストレートに聞いてみた。
すると忘れてたとばかりに自己紹介を始めた。
「おぉ……自己紹介をすっかり忘れていたよ。私は冒険者組合十字路都市テントス中央支部の責任者であるアドラル・マーテリアだ」
どうやら単に忘れてたらしい。
ちなみに組合のお偉方はどこも大半は現場からの叩き上げではなく事務職からの出世組である。
「なるほど……。しかし組合の支部長程度に王国の直轄地の住民権の手配とか可能なんですか?」
そもそも組合の力関係はどちらかと言えば国のほうが上だ。命令を強制することは出来ないが法律で活動を押さえつける程度のことは出来る。
「少し誤解を招く言い方をしてしまったね」
僕の失礼な発言には特に表情も変えずに理由を説明してくれた。
「教導員として働いた年数に応じて銅等級に引き上げるという意味だよ――――」
この世界はとにかく職業の選択肢が狭いし転職も難しい。職人なら15歳までに丁稚になっていないとまず受け入れられてもらえない。兵隊や事務職であれば20歳くらいまでは新規受付は可能だ。冒険者が騎士として雇用されるのも25歳くらいまでだ。
30未満で貯蓄がある程度あるなら農村部に行けば歓迎される。
街中にいて30代とかおそらく野垂れ死に予備軍扱いである。
銅等級に昇格した冒険者というのはそれなりにまじめに働いていたという評価になるので定住できるというのはそれなりに魅力的らしい。しかも教導員は結構年配になっても続けられるので遅まきながら結婚も視野に入れられる。
よーするに募集すればある程度集まるよということだ。
今月末までに人員を用意できれば良いのでこれは受けても良いかなと判断した。
了承すると「では、手続きなどは彼女に」と言ってマーテリア支部長は退席した。
「紹介が遅れてすみません。本日より共同体長である金等級の高屋様の専属係となりましたマクファイトと申します。以後良しなに」
そういって頭を垂れるのは20歳前後の上品な女性である。組合の職員になるにはそれなりに教養がいるのでそれなりの家柄のお嬢さんなのだろうと思う。
ただ結婚適齢期だと思うのでうちの共同体の男性陣はある意味標的になるかもしれないなぁ……。
「まずは専属受付係とは何かといいますと――――」
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