352話 不意の来訪者②
「判りますか」
「ほんのりと刀身が青白い魔法の波動が見える。魔法の才能がない筈の俺に見えるということはかなり一品だろう?」
この世界、打刀は5世紀ほど前に別の世界線の日本からやってきた集団が持ち込んだものだ。当時は魔術師組合もなく極一部の者が私的に研究し私塾を開く程度のものであった。
また現在でも公式には[魔法の武器]や魔法の工芸品は作れないとの見解なので[魔法の武器]の打刀とか存在しない事になっているのだ。
「それは僕が研究で【簡易的な魔法の工芸品作成】を実験に使ったモノでして、調子に乗って付加しまくったら僕の戦闘方法には合わなくなったんですよ」
「なるほど……俺なら合うのかい?」
「確か、先輩は打刀を防御にはあまり使いませんよね?」
「そうだね。俺の体得した[赤流刀術]は受流しはほとんど行わないな」
「なら問題ないですね」
「ところで、どういう効果が付加されているんだい?」
「鞘には抜刀時の速度を上げる【瞬閃】、刀身の状態を維持するための【状態保全】と【復元】、刀身には血脂対策に【洗濯】、斬撃の威力向上に【高周波振動】を付加しています」
水鏡先輩は少し考えこんだ後、
「魔術には疎いが、自己再生する高周波振動剣って解釈でいいのか?」
と言った。魔術名だけで推論したのだろう。
「概ね正解です。ただ僕の力量不足もあって刀身が折れると再生には時間がかかります。あと【高周波振動】は特殊な金属や魔法の防具に対しては威力が減衰します。それだけは注意してください」
「……すごいことは伝わったよ。それで幾らなら譲ってくれる?」
そう問われたものの実をいうとこの打刀は鍛冶の神の再来と称えられるバルドさんの習作のうちの一振りなんだよねぇ。
幾らにしようか迷っていると、
「俺の財産は冒険者組合の口座の分を含めても金貨250枚ほどだ。これ以上の値が付くなら諦めるよ」
などと言っているが先輩の目線は打刀に釘付けである。
「一つ約束を守っていただけるなら金貨100枚でお譲りします」
「ほぅ……その条件とは?」
「その打刀の出所を秘匿してもらいたい」
そう伝えると先輩は暫し瞑目しこう答えた。
「では、これは闇市で仕入れたということにしておこう」
「それでお願いします」
確かに闇市では掘り出し物が転がっているので不自然さはない。
「では、金を下ろしに行こう」
そういうと足早に冒険者組合へと向かう。
「ところで先輩。前から気になっていたんですが一つ質問いいですか?」
この際なんで前々から気になっていたことを聞いてみることにした。
「なんだい?」
「先輩って人斬り大好きじゃないですか? 街中でそこらの人は斬らないんですか?」
「……。いくら俺でも犯罪者に成り下がりたいとは思わないよ。犯罪者として捕まったらもう二度と斬れないじゃないか」
そう言うとニタリとイヤらしい笑みを浮かべてこう続ける。
「だから傭兵業は趣味と実益を兼ねそろえた天職なのさ」
ま、趣味で街中で人斬りしないのならいいのか……な?
他人事ながら床では死ねない人なんだろうなぁ……。
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