351話 不意の来訪者①
月月火水木金金生活が終わったと思ったら心身ともに壊し入院しておりました。
師匠と別れた後は次の目的地である冒険者組合へと向かう。十字路都市テントスはかなり広く目的地までは2.5サーグあるのだがここ数日は運動不足を感じていたのでいい機会だとばかりに乗合馬車には乗らずに歩いていくことにした。
一刻ほど歩くと組合の中央支部の大きな建造物が見えてきた。
そんな時だ。ふと不穏な気配を感じて護身用に左腰に吊るす光剣に手を伸ばすと――――。
「街中でも油断しないとは感心だね」
久しく聞いた知人の声が背後からした。
「水鏡先輩はいつも突然ですね」
僕は振り返りもせずそう答える。だが光剣から手を放しはしない。
水鏡先輩はお構いなしに話を続ける。
「いや、会えたのは実に幸運だったよ。それと言うのも頼みがあったのさ」
先輩が僕に頼み? 面倒ごとでなければいいんだけど……。そう考えつつ振り返り先輩を観察する。身なりは以前と変わりがない。羽織袴に打刀と脇差を差している。
「まずは愛刀を見てくれ」
振り返った事を了承と取ったのか先輩は勝手に話を進めるつもりのようで、左手で打刀をゆっくりと三分の一ほど引き抜く。
「それは――――」
赤延鋼特有の真紅の刀身が数カ所ほど大きな刃こぼれをしており研ぎなおしたとしても懐刀くらいまで短くなるだろう。普通に考えるなら破棄だ。
「これは破棄ですね。しかし何と戦ったんです?」
そう問うとよくぞ聞いてくれたとばかりに喋りだした。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「――――。ま、そんな感じだな」
要約すると共同体餓狼の牙に所属する先輩は雇い主である赤の帝国の命により東方南部域へ進軍する軍に随伴している。
赤の帝国の戦術基本原則は、どこからか発掘してきた真紅の魔導騎士軍団で人の手に負えないような構造物を破壊しまくって進軍し、歩兵部隊が残敵を掃討する。この歩兵部隊の一部に傭兵を充てているのだ。
そして残敵掃討中の餓狼の牙の前に立ちはだかったのが、東方で青の勇者崇められる人物と彼に付き従う従者の妨害を受けたのだ。
青の勇者の技量は心躍るほど優れていた。強固な青い板金鎧と盾を用いた防御が巧みで予想外の長期戦となった。更に従者である全身甲冑で身を固めた地霊族の男は戦神の神官戦士であり絶妙なタイミングで援護に入り幾度も倒すチャンスを防がれた。
鎧も特殊なものなのか気が付くと打刀の刃はボロボロでやむなく撤退したのであったとの事だ。
「そんなわけで私は新しい得物を得るために魔導列車に乗ってここまで来たわけだ」
「で、僕に何を?」
「打刀使いとして技量の良い打刀鍛冶を紹介して欲しい。または業物以上の打刀を持っていたら適正な価格で譲ってほしい」
「……なるほど」
師匠のとこの上位地霊族のバルドさんは不在だし、他に紹介状を書けるほどの知人は居ない。鉱山王国ラウムの階段都市モボルグの鍛冶師に打刀を打っている地霊族が居たはずだから彼を紹介する? それとも……。
この先輩は人斬り大好き、雑魚狩りで俺つぇぇぇ大好きなんで趣味と実益を兼ねて傭兵業務に準じている。単なる快楽殺人者なら断るつもりではあるが……。
顔も判らぬ他人より知人を優先するか……。
「これとかどうです?」
僕はそう言って魔法の鞄から一振りの打刀を取り出し先輩に手渡した。
「抜いても?」
「勿論」
僕の了承を得てゆっくりと抜く。
真紅の刀身が陽光を浴び煌めく。
「ほう……」
水鏡先輩から感嘆のため息が漏れる。
「大業物には届かないが業物だね。しかも刀身が赤延鋼というのもいいね。それに……」
水鏡先輩は気が付いてしまったようだ。残念そうな表情で打刀を突き返してきた。
「これは高くて買い取れない。こいつ、存在しないはずの[魔法の武器]だろ?」
しばらくは残業禁止を言い渡されているのでリハビリも兼ねて投稿ペースを上げたい……なぁ。




