350話 覚醒と伝授の儀③
連れてこられたのは師匠の共同体の倉庫であった。そして僕はそこに長々と鎮座する置物を見上げている。
「売れずに残っていたのですか……」
「こいつの本来の価格をポンっと一括で払える奴はそうはいないからな」
そう言って師匠は笑う。本来健司が買い取った時は弟子価格だったらしい。
「なるほど……」
倉庫に鎮座していたのは僕らが迷宮都市ザルツから使い大型魔導艦の試験運用の為に手放した大型の魔導騎士輸送機であった。
長時間かけて大荷物を運ぶのにどうしても必要になり師匠に問い合わせたら売れずに残っていたという事なので格安で譲ってくれるとの事だ。
「では、共同体口座から一括で引き落として下さい」となり、さっさと次の話へとうつる。
次の内容は終末戦争に関してだ。まず気になるのが師匠たちがどう動くかである。超越者たる師匠は現世の争いなどには極力介入はしない。というか分かりやすく介入すると因果律が狂い事態が悪化するとの事である。その為に極端な事を言えば世界が滅ぶレベルでないと最低限の関与しかしない。
いまやっていることもあくまでも冒険者共同体としての範疇である。
質問に対して師匠の回答はこうだ。
「終末戦争は終末のモノの手口さえ理解していれば逃げ切れる。俺としては余計な事はせずに大人しくしていることを勧める」
という事であった。
これには続きがある。師匠はさらに続けた。
「ただ、何事にも想定外の要因で事態が深刻化することはある」
「はい」
たとえ神と言えども"絶対に"など存在しない……事になっている。
「想定外の出来事、言うならば規約をどちらかが先に破るかなんだが、こちらからは事態を悪化させたくはない。先に規約を破る側が大抵負けるからだ」
そう答える師匠は感情の動きは見られない。この人は割と身内認定していない人には結構冷徹だ。
これまでの大きな被害の要因は統一国家による完全管理社会であり管理システムの崩壊によって戦争終結後の暗黒期の弱肉強食な状態で多くの死者が出たというのが実情らしい。
「そもそも俺らからすれば終末戦争は優先順位が低い」
「他に何かあるのです?」
「白の帝国の裏で暗躍している|自称"神"《そんざい》だな」
そう答えた師匠はソレがどういう存在であるかざっくりと説明してくれた。
神話の時代に居た名もなき半神が、大戦で死んだ光の神のふりをして光の神を名乗り隔絶した環境化で長い年月、それこそ数百世代をかけて狂信者を育成し、今や信者数3千万を超える大神級の力を持つ存在だ。
師匠らからすれば僕らはまだ足手纏いなのだろう。それ以上の事は教えて貰えなかった。
最後にいくつか師匠らにしか出来ないことを依頼する。そして茨の園の園の面子の集合場所などの話を終えて別れる。
別れ際に師匠はやや分厚い書物を手渡すとともにこう言った。
「模擬戦での現象は恐らく思考加速という名の恩恵だ。極限状態でなければ発現しない。覚えておくんだ」
極限状態?
模擬戦を思い出してみる。
そういえば初めて発現した後は何故か二回目以降は発現しなかったな。違いはなんだ?
「あぁ……そうか!」
発現するかもという期待が甘えとなって極限状態となりえなかったのか……。
実はすっごい微妙な恩恵?
まぁ……それは置いといてっと。
師匠から渡された書物だ。
この世界の主流である豪華な装丁が施されているが紙は羊皮紙ではなく、上質紙を用いられている。表題を確認すると[武技指南書]であった。
パラパラと頁を捲ると[高屋流剣術]の元となった[飃雷剣術]以外にも様々な流派の技が手書き図解と丁寧な解説がかかれている。
「これはありがたいなぁ」
読み込むのは後にしよう。
ブラウザの不備で適応が終わっていませんが誤字報告と感想ありがとうございます。
気が付けば五月。
月月火水木金金生活が続き救急搬送され薬の副作用で苦しんでましたが生きてます。
まさかひと月以上も更新できないとは……。




