346話
「法の神よ。この者らを罰せよ! 【神気炸裂】」
アルマの高らかな祈りが司教級の聖職者にのみ許される奇跡である【神気炸裂】を発現させた。
彼女を中心とに全方位に衝撃波が走り周囲の者たちを吹き飛ばす。
周囲で苦悶の声が聞こえる中、
「もう大丈夫ですよ」
と声をかける。二発目がないところを見ると一発で片付いたようだ。僕は起き上がり、「助かったよ」と言えば、「いえいえ」と微笑まれる。
この奇跡は術者の足元付近が安全地帯なのである。ゲームのように味方は巻き込まないといかないのが残念である。
周囲を見渡せば20名すべてが転がっており戦闘不能であることは見てとれた。
「加減は?」
「大丈夫。もちろんしましたよ」
人の形をした赤肌鬼に慈悲はないといったところなのだが、ここは街中なのでうっかりでも殺しはマズい。
ただ運が悪い者は手足が変な方向に曲がっているので彼らにはしばらく休業となる。生活できるといいんだけどね。自業自得という事にしておこう。
面倒は片付いたので衛兵隊が来る前に去ろうとしたところ背後から「動くな!」と声がかかった。
振り返ると衛兵隊である。10人。一個分隊である。まだ距離もあるし逃げてもいいけど……。
チラリとアルマの方を見やると首を振られる。
程なくして走ってきた彼らは鉾槍を構えた衛兵らをかき分け分隊長らしき人物が近寄ってくる。
「暴行の現行犯だ。身分証か滞在許可証を出せ」
随分と高圧的な態度にちょっとムッときたけど大人しく認識票を取り出し見えるように掲げる。
認識票を見た分隊長は一瞬表情を変え経緯の説明を求めてきた。
僕は簡素に多勢で囲み金と女を要求されたので撃退したと告げると、「ま、だろうな……」と言うとため息をついた。
多くの冒険者は階梯をあまり気にしないのだが、これは身元不明のチンピラ予備軍である冒険者の信用度を現すのだ。
多くの同業者にとって冒険者は良き職を得るための踏み台でしかなく、いつか自分の実力を評価してくれる人物が現れると思い込んでいる。適当な仕事をして酒と女に溺れる自堕落な者にまともな職への勧誘などない。
誰にでもなれる職業が冒険者であるがそこから抜け出すためにはそれなりに努力が必要なのである。
「もう行っていいぞ」
分隊長はそう告げると部下に街路で苦悶の声を上げているゴロツキの捕縛と連行を告げる。
「帰りましょう」
「そうだね」
アルマが手を差し出すので特に意識することなくその手を取る。
おおよそ予定通りの展開であった。
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「――――って事があったんだよねぇ」
「そりゃ災難だったな」
事の経過を健司に話すとそう返された。
「取りあえず彼らの事はどうでもいいや。本題に入るよ」
いま僕らは共同体の主要構成員を集めて大型魔導艦の居住区画で打ち合わせを始めるところなのである。
当初からの計画が軌道修正が必要な事、貴族に横からつまみ食いされた事、そして終末戦争の兆しが見え始めた事を説明した。
「歴史書を紐解けばそろそろ来るってわかると思うんだけど、なんで為政者らはこうもグダグダなのかしらねぇ……」
まず最初に声をあっげたのは和花である。
「単なる阿呆か、自分たちだけは助かる方法があるって考えてるんじゃねーの
?」
健司がそう口にするがやっぱりそう考えるよね。終末戦争を生き残るためには海ないし湖に浮く生活拠点か空に逃げるしかない。
中原の大国ウィンダリアの王都は巨大な湖に浮かんだ古代都市だ。恐らくだが国民には知らせずに知っているものだけ逃げ込むつもりなのだろう。
僕らとしてはどう立ち回るか……。




