345話 帰路にて①
「もちろん撃退よ」
両の拳を握り締めふんすふんすと意気込んでいるアルマさん。法の神の聖女様は意外と武闘派でした。
「……とは言え此方から手を出せば傷害で罰金は確定だよね?」
この迷宮島は荒くれ者の冒険者が多い事もあって常時三人一組の衛兵が一定間隔で巡回している。この世界に来て二年経過したが未だに法律の匙加減が分からない。
「相手が赤肌鬼のように徒党を組んで通行を妨害してくるなら力づくで排除しても許されるかなぁ」
法の神の聖職者にて高位審議官たるアルマの見解はそんな感じだ。ただし過剰打撃は注意とだけ付け加えた。
「この時間帯なら港湾地区へと抜ける脇道がひと気が少ないし丁度いいか」
「そうね」
方針も決まった事で僕らは何も気が付かないふりをしながら港湾地区の方へと向かって歩を進める。お互いに何がどれほどできるかきっちりと把握しているので事前の打ち合わせはしない。
他愛もない雑談をしつつ八半刻もすると徐々に人気も減り始め、追跡者の気配がはっきりわかってきた。その数は10人だ。
そう思っていたら前方からニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた10名ほどの集団が幅1.5サートほどの道幅一杯に広がり通行止めだと言わんばかりである。
実にわかりやすい。
僕らが歩を止めると真ん中の頭目格の二十歳そこそこの草臥れた硬革鎧一式の男が僕らへと歩を進め丸腰同然の僕らに対して優位を感じているのか0.75サートほどまで近づくと、
「おい、にいちゃん。俺らちょっと金に困っててよぉ……有り金全部貸してくれねーか? ちゃんと返すからよ。……ただ、気が向いたらだけどな!」
そう言うと何が可笑しいのかゲラゲラと笑い出す。それに追従するように取り巻きもゲラゲラと笑い出す。チラリと横を見ればアルマが不快そうな表情をしている。
「なんならそっちのお嬢ちゃんも置いてってくれてもいいんだぜぇ」
さらに追従するように別の男が厭らしい笑みを浮かべるとアルマへと近づいてくる。
しかし……こっちの世界の美貌の基準は元の世界と大差ないが、モテる水準は肉感的な女性でうちの面子だとアンナとか時点でアリスだろうか? 逆に和花やアルマのような小柄で細身のタイプは観賞物としては人気だが性的にはマイノリティに属する。瑞穂やピナは? 枠外である。
予想するに彼らは遊ぶ金がなくて妓館に通えず、かといって冒険者を口説いて遊べなかった。取りあえず溜まってるから穴があったら入れたい。だけど同性同士で処理するのは御免被るといったところだろうか?
徒党を組み多数で少数を嬲るような精神性は赤肌鬼と同じだなぁ。
まぁ……身体の大きな赤肌鬼と思えば斬ることに躊躇いはない。そうか……。野盗や暴漢らを撃退する事に忌避感が薄いのは彼らを人間として認識できないからか……。
そうこうしているうちに街路を塞いでいた面子がじりじりと近寄ってくる。尾行してきた面子が追い付いて包囲を狭めてきたという事だろう。二〇人というと多いとは思うが一度に襲い掛かれる数は数人程度だ。
少し予定が変わるけど、この際だから向こうから仕掛けさせるか。
徐にポケットから金貨を取り出すと街路に放り投げる。そして高圧的に言い放つ。
「恵んでやる。拾え」
一瞬何を言われたのか理解が及ばなかったのかポカーンとしていたが、内容を理解できたのか顔を真っ赤にし片手半剣を抜く。それにつられて取り巻きらも各々の得物を構える。
「舐めやがって! ぶっ殺してやる!」
頭目より先に別の取り巻きが得物を大きく振りかぶりつつ踏み込んでくる。
「アルマ、任せた」
僕はそう告げると勢いよく、伏せた。
「法の神よ。この者らを罰せよ! 【神気炸裂】」




