341話 迷宮島での交渉③
正直言うと僕は厳しい交渉って性格的に苦手なんだよね。なのでお互い妥協点で十分と考えている。
厳しい交渉の結果として相手を打ち負かした優越感と一方的にこちらの要求を呑ませた事による利益は大きいだろうが恨みも買うからねぇ。
今回の話で言うと金額的にはこちらは満足しており、先方の条件を二つ飲めば双方ともにほどほど満足だと思っている。
が、これだけは確認しておきたい。
「ところで、連絡員としてはどのような方を?」
「仮にも冒険者に同行するのであれば……」
そう言って暫し瞑目する。そして、
「元冒険者で幸運の神の神官戦士にして独立商人と言うものがおります。その者をつけましょう」
幸運の神とは商業の神の権能の一部を与えられた従属神である。直属の部下と言う訳ではないのか……。
従属神に仕えているからと言ってだからと言って命令権があるわけでもないし一応中立的立場の者を派遣すると考えていいのかな?
高位審議官相手に嘘、大袈裟、紛らわしい事はほぼ通じない。だがこちらに審議官が居る事は織り込み済みの筈だから……。いかんいかん。疑い出したらキリがない。
職分としてはアルマの立ち位置も配慮されてはいるが、アレの存在を知られるのは困るんだよなぁ……。そう、未知の孤島関連である。
此方としてはまだ未知の孤島関連の存在を知らしめたくはない。欲深き僕はもうちょっと美味しい思いをしてから情報を出そうかなどと考えているのだ。
悩んだ末、まずはこう回答した。
「買取に関しては先ずはマネイナ商会に最初に打診するとしまして、連絡員は不要かと思っております」
取りあえずは連絡員は断っておく。神官戦士という触れ込みもピンキリだ。独立商人という触れ込みも今の段階では単なる転売屋レベルかも知れない。
「なるほど。素性の分からない者を押し付けられても困るという事ですな」
会頭はそう言って顎をひと撫ですると一枚の書類をテーブルに乗せた。
視るように促されたので手にとって視線を走らせる。
非常に興味を引いた項目がある。
それは元騎士であるという点だ。東方民族であり東方の既に滅びた都市国家で従騎士だそうで、初陣の戦場で幸運の神の声を聴いたという。
その後、幸運の神に導かれ戦場を脱出し、乗っていた騎体を幸運にも高額で売却し、偶然にも格安で中古の貨物仕様の魔導客車を手に入れると冒険者組合に登録し運送専門の冒険者として五年働いたという。その後資金が溜まったので商人組合登録し独立商人として今日に至るという。
恩恵持ち、もしくは幸運の神の聖者?
性能的にはうちの船員の上位互換と言ったところか…………。
だが、それほどの人材を……。いや独立商人か……。
対外的には何処の組織の者でもないと言いたいのか。
なら当人と魔法の契約書を交せばアリか?
よし、決めた!
「その連絡員と魔法の契約書を交すことは可能でしょうか?」
「当人が了解すれば構いませんよ」
「そうですか…………。では前向きに検討します。回答は十字路都市テントスに戻ってからという事で。それと太古の貨物船は売却しますので手続きの方は宜しくお願いします」
特に緊迫感もなく交渉は終わり支払いに関する魔法の契約書を交し猊下、もとい会頭はホクホクと帰っていった。
そして先ほどから沈黙を守っていた閣下、もとい殿下が口を開く。
「さて、私の番であるな。確か卿は土地を欲しているんだったな?」
「はい閣下。うちの装備を置いておくには都市は狭すぎます。訓練と倉庫も含めてそこそこの規模の土地を探しているのは事実です……」
そこで沈黙したが本来はこう続く、『何方かの臣下とならず』という条件が。
「仮に私が卿に土地を提供すると言ったらどうする?」
今年中には今章が終わらなかった。
これも無計画に等しい業務計画のお陰だ。
今年も大みそかまで働き年始は大掃除で終わり四日からはもう働いている事だろう。
皆様良いお年を。




