339話 迷宮島での交渉①
冒険者組合の受付広場は大混雑している。迷宮島への物資の輸送を悩ませる伝説級の大海竜が僕らの共同体に手によって討伐されたからだ。すでに八隻の複層甲板大型帆船が近海で沈められており各種物資が枯渇しかかっていたという。
この迷宮島は神話級迷宮宝珠によって生み出された島そのものが迷宮となっている稀有な存在であるが迷宮主が不在であるにもかかわらず未だに未踏破という。
僕らがかつて活動していた迷宮都市ザルツは興業の性質を持っていたがこちらはガチの死の迷宮らしい。
にも拘らず多くの冒険者が挑戦するのはここから排出される魔法の工芸品の数が他所より多いからだと言われている。
迷宮攻略に大物喰い
な戦士は需要が高い。戦いの流れを変えた致命的な一撃を繰り出した健司に対していろんな意味で熱い視線が突き刺さった。
本来であれば和花も対象に入るのだが彼女は昨日から生活魔術の【鮮度延長】を解体した大海竜の肉に施し力尽きており現在は船室で寝ている。
戦士としては極ありふれた体躯の僕など誰も気にも留めない。和花を除けばあの戦いで最も活躍したのは健司であろうし大物を倒せる優秀な戦士は何処へ行っても持て囃される。
次点として揺れる上甲板で魔導騎士を操り止めを刺したシュトルムも注目を浴びている。
多くの者が健司とシュトルムを囲み討伐話をせがむなかで僕とアルマはこそこそと冒険者組合の奥の部屋へと通される。
目的は大海竜の肉などの素材、曳航してきた三隻の太古の貨物船の売却の話である。通信師によって事前連絡をしており既に交渉相手が待っているとの事であった。
交渉の場として用意してもらった部屋は重要な会議を行う際に使用する特殊な部屋であった。周囲を帳が覆っている部屋なのだが、この帳が魔法の工芸品であらゆる探知魔法から内部でのやり取りを阻害する効果がある。
部屋には冒険者組合の支部長の他に二人いた。一人は見知った人物である。僕らが入室し扉を閉じると立ち上がり、
「卿の強運さと強さには呆れるばかりだな……ま、座り給え」
そう言って着座するように示唆する。この人物は中原の超大国であるウィンダリア王国のコニグ・デア・ウィンチェスター子爵である。それは世を忍ぶ仮の名前でその正体はケーニッヒ・スル・ウィンダリア王太子殿下である。
僕とアルマが着席したのちにもう一人の人物が名乗りを上げる。
「私はマネイナ商会の会頭をしております。アルク・サル・シュトレーンと申します。以後、お見知りおきを……」
そう述べると一度、アルマの方に視線を移して軽く会釈をする。
「あの方は商業の神の総大主教猊下ですよ」
大店の会頭かぁ……くらいに思っていたら、横からアルマがこそっと耳打ちしてくれた。ちょっと大物過ぎて眩暈が……。
ま、気持ちを切り替えよう。冒険者としては顔を売っておいて困ることは……。
……ないと思いたい。
「さて、高位審議官殿が同伴しているのにくだらない言葉遊びをしても詮無きこと故にさっさと本題に入ろう――――」
そう言って二人が付きつけた内容はこちらの想定を大きく上回る破格な内容ではあった……。
いつもお読みくださりありがとうございます。
今年中にもう一話か二話ほど上げられそうです。




