337話 大海原の襲撃③
【飛行】で飛び上がった僕を視認したのか大海竜が煩わし気にこちらを見るものの小物に用はないとばかりに無視される。
確かに食料としてみれば人間一人程度誤差であろう。
僕はと言えば上空から俯瞰しつつ観察する。
なるほど……確かに頭部だけ見れば青竜と見紛うと思う。迫力はあるが、こいつはデカイだけの海蛇なんだ。過剰に恐れるなと自分に言い聞かせる。
まずは此方に気を引くため嫌がらせも兼ねて練習用で創った魔法の武器の短剣を投擲する。それは鼻先に命中し付与された【火球】が発動し爆発を起こす。
鼻先の爆発に流石に無視できないようで鎌首をもたげ僕に狙いを定める。
その時であった。
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
全身から裂帛の気合と共に健司が[炎の纏うもの]を大きく振りかぶると矢のように飛び出す。その距離2サートほど。
突進のタイミングに合わせて振り下ろした[炎の纏うもの]は命中する刹那に刀身が伸びたような錯覚を起こし大きく深々と大海竜の胴体部を切り裂く。
痛みに鈍感なはず巨大生物が悲鳴のような咆哮を上げる。見れば直径で1.5サートある筈の胴体が半分ほど切り裂かれ脊椎すら断たれている。
【斬撃】の構えからの突進と魔闘術との融合である[功鱗闘術]の奥義【屠月斬】であった。
「いつの間に会得したんだ……」
そう感心したもののよく見ると[炎の纏うもの]を振り下ろしたまま健司が動かない。そして大海竜痛みに身をくねらせた勢いに巻き込まれ上甲板を転がっていく。
健司を助けに行こうかと思った時、またしても想定外の事が起こる。
「全てを、開放せよ」
その聞きなれない上位古代語の叫びは和花のものであった。
「綴る、八大、奥義、第十階梯、攻の位、雷雲、生成、電光、――」
聞きなれない詠唱が始まると上空に稲光を発す黒雲が発生していく。
そもそも一〇階梯の魔術?
申告では少し前に七階梯の魔術が使えるようになったって話じゃ?
疑問に答える者はなく詠唱は続く。
「――、電撃、帯電、迅雷、雷槍、制御、放電、落雷、道標、発動。【天雷】」
そして通常の魔術よりやや長い詠唱が完了すると激しい雷光で視界が真っ白に染まり天からの雷槍が大海竜を貫く。そして耳を劈くような轟音。
「やったか?」
視界が戻り思わずフラグを建ててしまう。
フラグを建ててしまったせいとは思いたくはないが、やはり大海竜は生きていた。半身は麻痺し全体的に火傷に覆われている。
大魔術を放った和花はと言えば杖を支えに辛うじて立っている状態であったが、タイミング悪く大きな波によって船体が揺らぎ上甲板を転がっていく。
恐らくだが健司同様に限界を超えた一撃だったのかもしれない。
肝心の大海竜は脊椎を断たれ雷を受け上甲板に横倒しになっておりその命は風前の灯火であるが油断してはいけない。
昇降機が上甲板の位置に達し駐騎姿勢の二騎の魔導騎士が姿を現す。こちらの意を組んだ騎体選別であった。
先に立ち上がったのは青系の洋上迷彩に彩られた中量級の水中戦検証機である[アル・ラゴーン・シルディア]である。搭乗者は恐らくだがハーンであろう。もう一騎の妙な外装が取り付けられた[アル・ラゴーン]選択装備検証騎は開閉扉が開いており僕かシュトルムが登場を想定していたのだと思う。
ここは手柄を欲しがっているシュトルムに譲って僕は倒れている和花と健司の様子を確認しようと思う。
こうなってしまうと[身代わり人形]を使ったのは失敗だったなぁ……。
どうしよ。
ブックマーク&評価ありがとうございます。
締め切りが締め切りが……。
これ以上クライアントがゴネ無ければ後二話くらい書けそうかな?
そういえば感想ありがとうございます。ちょっとメンタルがアレなんでまだ目を通してませんが……。




