335話 大海原の襲撃①
艦内に警報が鳴り響く。
また突撃鯨あたりの体当たりを受けたのだろうか?
だが継続的な揺れと軋むような音からそれは違うと判断する。
超大型の海洋生物の襲撃を受けたのだろう。正体を確認すべく居住区を飛び出し甲板へと向かう。しかし輸送艦を三隻曳航しているのになんでこの艦を狙うのかねぇ?
「……なっ!」
疑問には思ったものの甲板に出て双月に照らされたそいつを見て仰天した。
僕らを襲ってきた海洋生物の正体は竜のような頭部と鱗を持ち長い体躯で船体を締めあげている――。
「変異大海竜ね……」
僕が記憶を弄っている間にアルマが回答してくれた。
「あれが……」
竜と言うが実際には大海蛇の遠い親戚に属している。こいつに限れば長さ15サートを超え、胴の直径は1.5サートにもなる。目の前で船体を締め上げるそれは宛ら肉の壁だ。
「ハーンに装備を整えたうえで上甲板に上げろと伝えろ! 急げ!」
誰にでもなく伝令を頼む。様子を見に来ていた船員の一人が踵を返して艦内格納庫へと向かう。
ハーンであればこの状況から何が必要か察するはず。
船体締め上げ艦橋に噛みついているがどう対処したものか……。
あれだけデカいと生半可な攻撃では小揺るぎもしないだろう。手を拱いていると裂帛の気合と共に健司が上段に構えダグがそれに続き羽根付き槍を構え飛び込んでいく。
「綴る、創成、第七階梯、攻の位、魔力、凝縮、光槍、誘導、瞬閃、発動、【魔力の投槍】」
流麗な詠唱と共に和花の光輝く投槍である【魔力の投槍】が放たれる。
それは突き刺さると弾ける。抵抗されたのか効果のほどは低い。健司たちの一撃も硬い鱗と筋肉に阻まれ僅かに傷つけるのみであった。
「法の神よ!」
アルマが右腕を突き出すと無形の衝撃波が大海竜を襲う。奇跡の【気弾】だ。
「やっぱり駄目ね。樹くん――」
効果のほどを確認したアルマが攻略の糸口を提案をしてきた。
先ずは補強だ。
「綴る、基本、第四階梯、付の位、魔力、収束、増強、発動、【魔力増強】」
無事に発動した魔術により一時的に僕の魔力強度が上昇する。
ここまで大型の敵に対して十分な効果のある魔法は多くない。僕はいま使える中で最大かつ知能の低い生物などに有効な魔術を選択する。
「綴る、精神、第七階梯、攻の位、凝縮、影槍、誘導、脱力、発動、【闇の投槍】」
漆黒の投槍が大海竜に突き刺さると悲鳴を上げる。
この魔術は肉体には何ら傷をつけず精神を減衰させる効果がある。そして知能の低い生物は総じてこの手の精神系の魔法が有効なのだという。
だが、ここまで大きな生物だと会心の一撃でも出ない限りは流石に一撃では沈まない。
有効打が分かった事で和花も【闇の投槍】の詠唱に入る。大海竜
更に瑞穂とアリスが闇の精霊を召喚し大海竜にぶつける。
闇の精霊
は表面で弾けると大海竜の精神をさらに減衰させる。
それなりに脅威度が上がったのか甲板の小煩い僕らを処理する事に決めたようで鎌首をもたげる。
魔導騎士ですらひと噛みで処理できそうな巨大な口が狙いを定める。
「各員、奴の気を引け!」
前衛組に指示を出し再度【闇の投槍】を投擲する。だが動きながらの詠唱が悪かったのかその一撃は抵抗されてしまった。前衛組で攪乱して後衛組の魔法や射撃の間を作らねば。
後はハーンが魔導騎士の準備を終え昇降機で上甲板に上げてくれれば……。
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忙しすぎて体内時計も狂ってきてるし、どうやったら時間管理が上手くなるのか……。




