332話 いざ登頂へ④
「で、相談って?」
ソファーに腰をおろし和花の相談とやらを聞こうと思う。
「この仕事が片付いたら移動拠点が無くなるでしょ?」
「そうだね。持ち主はウィンダリア王国だしね」
「返却した後の事は考えているの?」
「ないわけじゃないけど……」
確かにこの陸上艦には僕らの共同体の私物が多い。特に魔導騎士とかね。それらの置き場などで駐機料だけで毎月結構な金額が飛んでいく。それを指摘しているのだろうか? プランはあるのだけどまだ確定していない。
「倉庫街を借りるのも経費が馬鹿にならないんだよね……」
「なら、郊外に共同体の拠点を移さない? 十字路都市テントスの事務所はそのままでも良いけど……」
「郊外ねぇ……」
共同体の設備維持に人を雇いたかったこともありそれなりの敷地が欲しいので郊外案は悪くないなぁ……。
ただ国の領土内で勝手に土地を所得出来ないので、王国の直轄領ないし貴族の所領から借りなければならない。売ってもらえないんだよねぇ……。
危険を承知で魔境と呼ばれる西方との緩衝地帯ならタダなのだが……。
「その前に相談って?」
「実は拠点を自然豊かな郊外にして欲しいってお願いなの」
「それはまたどうして?」
「実は――」
魔術と違い精霊使いの技量と言うのは非常にわかりにくい。どうやら和花と瑞穂の精霊使いとしての技量に伸び悩みを感じておりアリスに相談したところ、都市部に住んでいると精霊との交感能力が伸びないという事が分かったそうだ。
それで自然豊かな郊外で精霊との交感能力を鍛えたいというのだ。アリス曰く、都市部の生活者はほぼ精霊との交感能力が衰えていくのだという。
「珍しい……」
「何が?」
「だって、和花って人前で勉強とか鍛錬って嫌ってたじゃない」
そうなのだ。彼女は努力している姿を人に見られるのを極端に嫌っている。だが他人が努力している姿は好感が持てるという難儀な人なのだ。
「そうなんだけどね……」
「候補地はあるの?」
「移動は[転移門の絨毯]を十字路都市テントスの事務所と繋げば困らないし……樹君も人里離れた方が都合がいいでしょ?」
郊外になると盗賊対策で人を増員しないといけないが、若い冒険者をここで訓練しようかとも考えているので悪い話ではない。
しかし郊外かぁ……。
和花は、僕がこっそり考えている計画を何処まで察しているんだろう?
誰にも言っていない筈なんだけどなぁ。
その後他愛もない雑談が続き夕刻――。
唐突に衝撃が襲いテーブルの食器が床に落ち甲高い音を立てる。
「坊ちゃん。敵だ!」
トーラス通信師の声が伝声管を通して艦内に響く。こんな高度で敵?
気が付いたらブックマークが増えていました。ありがとうございます。
ちょっとブラック業務で手が回らない&お脳みそがやられちゃった両親に手を焼いていて執筆に割くリソースがありません。
暫く不定期投稿が続きます。
なにとぞ広い心でお待ちください。




