33話 奴隷を買ってもらう
2018-12-25 サブタイ変更
口にしないが皆からの了承を得て格子状の窓へ近寄る。奴隷には首から値札がぶら下げられており瑞穂も例外ではなかった。
「金貨35枚…………」
相場は分からないが他の奴隷から比べると割安だ。それでも僕にとっては絶望的な金額だった。いや、全財産を差し出せばギリギリ足りる。だが本来このお金は一党資金なのである。買い取れば金貨1枚ほどは手元に残る計算だが…………。
だけどこの金額は僕の独断で扱えるものではない。
トボトボと皆の元に戻り現在の手持ちの金額と値札の金額を告げる。
「金貨一枚以上残るんだろう。頑張って仕事すれば生活自体はなんとかなるんじゃね?」
健司はそう言ってくれたが、この資金のうち金貨10枚は師匠に返さなくてはならない。さらに一党資金と僕らが個人個人で使うお金も分けていない。
瑞穂を奴隷から解放して元の世界に返すのは親族であるの僕の役目であり皆には迷惑はかけられない。
そう皆に告げる。
「だから、今回は諦————」
「奴隷との出会いは縁と言います。一度逃すと次はないとも言われています。それでも諦めますか?」
僕の宣言を遮ったのはマリアベルデさんだ。
「いや、でも————」
そう逡巡していると、マリアベルデさんは僕の右手を取って何かを押し付けてきた。
「これって大金貨じゃないですか!」
僕の右手には大金貨、いわゆる5万ガルド硬貨が一枚あった。
「返済はある時払いで構いません。私は探しモノの旅をしていますので返済は冒険者組合の私の口座に払い込んでくれればいいです。何処にいるかわからない私を探して回るのも手間でしょ」
とにかく行きましょう。とマリアベルデさんが僕の手を引いて奴隷商の扉をくぐる。
マリアベルデさんが女神に見えた。
交渉などはすべてマリアベルデさんが行ってくれた。僕はただそれを横で見ていただけだった。
問題があったとすれば金額だった。
金貨35枚の奴隷の価格だが、他にも初年度登録税や奴隷解放手続きが必要で合計すると金貨40枚になってしまったのである。
運がよかったのは奴隷の刻印を解除するのにかかる解呪費用が金貨50枚だったのだが、それはマリアベルデさんが解呪してくれたので費用に計上されていない。
あっさり解呪されて奴隷商の驚く顔が面白かった。
全部の手続きが終わるのに半刻ほどを要した。外で待っている皆には申し訳ない。
「樹兄さん…………」
泣き出す瑞穂を抱きしめ背中を擦ってやる。昔からこうすると落ち着くのだ。
程なくして落ち着いてきたのか突然勢いよく離れてしまった。
「ごめんなさい。匂うよね?」
しまった。不衛生な環境だったのだろうから汚れや匂いは仕方ないと割り切っていたけど…………年頃の女の子に対して配慮がなかったな。
そこまで気が回ってなかった。どこかで生活魔術の使い手を探さないと…………。
「清めよ」
そんな僕の思いが通じたのかマリアベルデさんが右手の人差し指に填めた指輪を掲げ命令を唱える。
すると淡い光が瑞穂を包み込みむ。それが晴れると奇麗に汚れの落ちていた。
「あ、ありがとうございます」
瑞穂が頭を下げお礼を言うが、日本帝国語だったので通じてはいないようだが、意味は分かったようだ。
僕からも改めて礼を述べる。
しかし今のが生活魔術の【洗濯】か…………やっぱ便利だな。
「ん? これ? 汎用魔術の指輪なの」
僕の視線に気が付いたのかそう言って指輪を見せてくれる。
汎用魔術と言って特定の命令を唱えると誰にでも指輪に封じられた魔術が使えるという簡易魔法の物品だそうだ。
旅の必需品だと言い切った。
確かに必需品だとは思う。
特に女性にとってはね。
店内で話し込んでも邪魔にしかならないので店舗を出て皆と合流する。
和花が瑞穂と再会を喜び合っているなか、
「今夜は夕飯のお誘いありがとうございました。私はこれで失礼しますね」
そう述べるとマリアベルデさんは足早に去っていく。まるで何かから逃げるように…………。
「そういえばあの子は何かに追われてるようなこと言ってた気がするなー」
気分の落ち着いた和花がそんな事をいう。
「ところで樹よ。返済先聞いたのか?」
「あっ」
健司にそう指摘されて聞き忘れていることに気が付いた。
「でも、迷宮都市ザルツに用事があるって言ってたし、すぐに会えるんじゃないか? あの子目立つし」
隼人の言うことは確かに当たっていそうな気がする。
再会できると良いんだけどねー。
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一晩宿で過ごして5人で街をうろつく。
目的は瑞穂の生活用品の購入だ。なんせ裸足のうえに貫頭衣の下には下着すらないのである。
基本的には和花に任せて僕ら男三人は買い食い担当である。
一刻ほど門前町の大通り沿いの商店を回り少し早めのお昼を終えて冒険者組合へと向かったところで、待ち人と遭遇した。
「師匠。無事に第二階梯へと昇格しました」
やっぱり終わらなかったー!!




