325話 未知なる孤島-港湾都市⑤
今ごろ、樹たちは中央の山をぐるぐると渦を描くように上っている最中だろうなと思いながら各員の報告を聞いていた。
シュトルムには太守の館の防衛面でのチェックをしてもらい手持ちの万能素子結晶を用いて設備も問題なく稼働したとの事だ。ついでに女中ちゃんらが使う設備も問題なく稼働するとの事で生活面では苦労する事はないとの事だ。一度生活水準が上がると下げるのは精神的にも苦痛が伴うんで助かったな。
町の外へでたダグ一行は毎日のように魔物狩りを行い程度の低い万能素子結晶を大量に運び込んでいる。程度が低いという言い方だと彼らの仕事ぶりがよろしくないように聞こえるが、魔物の強さと万能素子結晶の品質の良さは比例しているのでこれに関しては仕方がない。要するに弱い魔物しかいないのだ。
ただ朗報もあり、距離にして1.5サーグほど。草原の真ん中に迷宮を発見したと報告があった。迷宮が勝手に増殖することはないので踏破予定の迷宮で間違いないだろう。
俺が率いた街中の探索だが、こっちは二等市民街などは建物が倒壊しており太守の館とその駐屯地と港湾設備及び貴族と思しきいくつかの館とそれを取り囲む強大な市壁以外は八割がたは使用不可であった。
面倒だった事と言えば天然物の骸骨が多数徘徊していたくらいだろうか。倒したところでゲームのようにレベルが上がるわけでもないし、ドロップアイテムがあるでもないし、迷宮産とも違い万能素子結晶も出ない。戦闘訓練と称するには弱すぎるしで踏んだり蹴ったりであった。
天然物の骸骨だが恐らくは二万年前の二等市民であろう。
そしてハーンの管轄である太守の館の地下施設である。奴はと言えば終始ニッコニコである。設備を十分に稼働させるためにはそれなりの万能素子が必要なれど機能自体は全て生きており、あれをやりたいこれをやりたいと妄想を膨らませている。
ただそんなハーンであったが気になることを言った。
「この設備を気前よくくれた島の主は俺らに何をやらせたいんですかね?」
それがハーンの感想である。
確かに気にはなったが、そういうのを考えるのは樹の仕事なんで取りあえず保留とした。
やることもなくなったという事でハーン率いる五班と女中ちゃんだけを太守の館に残して俺らは迷宮周辺の調査に乗り出した。
迷宮に入らなかった理由は斥候役が居ないからだ。周辺のあぶれた魔物を狩りつくし道のりの安全を確保しておこうという事になったのだ。
樹の話では人手不足なので大陸で燻っている若いやる気のある冒険者に迷宮攻略を手伝わせようと考えているらしいので、その下準備みたいなもんだ。
そんな日が続いて、樹と別れてから一週間ほど経った日――。
割とヤバイ奴と遭遇した。




