322話 未知なる孤島-港湾都市②
「これ、本当に自由に使っていいんすか?」
すげぇ、すげぇと連呼した後に振り返ってそう尋ねてきたのはハーンである。ここは太守の館の地下設備の一種である生きた自動工場である。
物質を最小単位まで分解後に再構成したり大気中の万能素子から物質を生成したり有機物から食料を生成したりと最も素材の元が何かを想像した途端に生理的に受け付けなくなる可能性も無きにしも非ずだが……。
「前から欲しがっていたのは知っていたし、この設備自体は仕事の報酬でもあるけど、問題は手引書が下位古代語なんだよね。読めたっけ?」
「辞書片手に頑張りますよ。本当に自由に使って構わないんすよね?」
更に念を押してきたので、一応補足しておくことにした。
「制限は設けないけど、こちらで必要な物があれば優先順位はこっちが要求するものが先になるかな。あとは……稼働には万能素子が必要だからそれの確保もしないとならないね」
実はこの万能素子の確保が大変なのであった。周囲の万能素子が一定濃度を下回ると強制的に制限がかかるようで、現段階だとかなり機能が制限されているのである。迷宮都市ザルツで万能素子結晶の買取を行っていた理由の一つが魔導機器を稼働させるための万能素子の確保の為でもあった。
僕らも周辺で狩りを行ったりして万能素子結晶を供給しないと高度な物は作れないと思われる。
あとは管理者不在で暴走している迷宮を踏破して機能を殺せば迷宮が強制的に収集している万能素子をこちらに回せる。
その為には僕ら以外にも冒険者は欲しいところである。
まだ案内が住んでいないので興奮冷めやらぬハーン以下船員らを促して次の設備へと移動する。
「ここは……地下船渠ですか…………」
残していく船員の中でハーンに次いで魔導機器に精通している五班の班長であるブラートである。
僕らの目の前にあるソレは巨大な二隻の巨大な船であった。この世界での一般的な船と言えば木製で三本帆柱、全長15サート、全幅3サート、排水量600グランほどの複層甲板大型帆船である。
僕らが普段当たり前に使っている陸上艦などは過去の文明の掘り出し物の復元品でしかなく一般的には出回っていない。
そして目の前のソレはザイドリック級をも軽く上回る巨体であったのだ。手前のの船は全長62.5サート、全幅10サートの扁平な形状の……敢えて近い形状を言うなら潜水艦だろうか? レセップス砂漠の遺跡で動力源にされていた船に近い。
ただ肝心の回転翼推進器は見当たらない。
「建造時期的に恐らく水流噴孔推進機関っすね」
艦尾を眺めていた僕の疑問に答える形でハーンが答えてくれた。
そして当時には潜航艦という艦種は存在したという。
「なら、奥の船は何だと思う?」
奥にある船は手前の船よりさらに巨大で全長100サート、全幅20サートはあり、形状はコンテナ船、いや石油運搬船に近い。
しかし、ここにあるという事はまだ艤装が終わっていないという事だろうか?
これで海運業とかやったら他の商人が泣くだろうなぁ……。
「こいつも含めて調査の方を頼むよ」
そして僕はハーン以下、ここに置いていく船員らに「後は任せたよ」と告げて僕は太守の館へと戻る。




