321話 未知なる孤島-港湾都市①
後頭部の柔らかな感触と背中の固い感触に違和感を覚えたのかブラックアウトしていた意識が戻った。
昨夜は調べ物などもあり、あまり寝ていなかったせいか気が付けば湯に浸かりつつウトウトしてしまったようだ。そして目を開くとそこには僕を見下ろす和花の顔があった。
「あっ、おきた」
目が合うとその美しい顔を綻ばせる。今朝は昨日の件で不機嫌だったのか珍しく塩対応だったのに何があったんだろう?
いや、それより僕はいつ浴槽から出されたんだ?
少なくとも和花の力では僕を浴槽から引っ張り出すのは無理だろう。その理由はすぐに判明した。小柄でずんぐりとした石のヒト型。
怪力で名高い石の従者だ。
健司あたりを呼べば済むのに触媒と魔術の無駄使いである。
「気が付くのがもう少し遅かったら樹くん、水没してたところよ」
呆れたと言わんばかりにため息突くのであった。
「ありがとう。助かったよ。で……、なんで湯着なの?」
「それは勿論、イツキニウムの補給に!」
「イツキニウムってなんだよ!」
反射的に突っ込んでしまった。
「勿論、わたしのエネルギー源だよ」
そんな事も知らなかったの? と言わんばかりの表情でそう宣った。
そう言われてしまえば僕としては今朝の事を聞かなければならない。それに対しての回答はと言うと……。
「昨日……、事態が発覚した後はそりゃぁ心配したんだけどね。でも私物が【所持品召喚】で引き寄せたのが分かったしね。それに――」
そうして四半刻にもわたって如何に心配したのかと、こちらが会話に割り込む余地もなく語り続けたのであった。
「今回の件に関しては心配かけて悪かったよ……」
「理由を聞けば仕方ないと判るからそれに関してはもういいわ。それよりも……」
一旦言葉をきると艶っぽい眼差しでこう続けた。
「そろそろ、据え膳を頂いても良いんだよ……」
「自分で据え膳とか言わないの」
そう言って和花の軽口を窘める。そりゃ僕だって据え膳を美味しく頂きたいのだけど、今の僕らの立ち位置は吹けば飛ぶような微妙な位置にあり自らの性欲より自分たちの安定を優先すべきと考えているのだ。
この世界は大きな組織が強権を発動したりすることもあり信用し過ぎるのは危険なのである。
王族や貴族に縁もあるが、彼らも若くて実力と運のあり都合よく動いてくれる冒険者が欲しいのであって僕ら本人には興味がないのである。
名残惜しいとは思うけど、そんな感じで説得と言う名の言い訳を試み、それに対して和花はと言えば、
「ま、樹君が私に興味がなくなったとかじゃないならいいかな……」
やや不満そうな声音ではあったが納得させたのか腰を上げると、「そろそろお昼だよ」と口にし浴室から出ていってしまった。
「力が欲しいなぁ…………」
ついついボヤいてしまった。
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「これが報酬なのか…………気前がよさげだろ」
「そうだね。だからこそ警戒してしまうんだよね」
見張り台から望める光景に対しての健司の感想である。
ザイドリック級は古代の街、ルードの港湾設備に停泊させ荷下ろしをしている最中である。
昼過ぎの打ち合わせでハーンを頭目に船員ふた班10名の他に女中ちゃん三名とシュトルムとセシリーが街の探索に残る事になる。
「あそこの船舶とか俺らの世界の船と大差ないな」
健司の指さす方へと視線を移すと先日は夜で見えなかったが係船岸壁に三隻の巨大な船が係留されている。形状から見るに貨物船だろうか?
二万年前の世界は僕らの居た世界と大差なかったという感じだろうか?
更新ペースを上げるんじゃなかったのか……。
いや、先月に職場でやる気をボキリと折られて以来、なんか全然やる気が……。




