32話 失くしたものと巡り合う
2018-12-25 サブタイを変更
2019-06-09 脱字修正
「はい。これで手続き完了です。お疲れさまでした」
冒険者組合の受付嬢さんがそう言ってニコリと営業スマイルで微笑む。
早朝に村を立ち夕刻に門前町に到着し狩人さんとはそこで別れて組合の受付に終了報告へと向かったのだが、手続きを開始したら報告書の作成やら闇森霊族の首についての報告やらで一刻ほど時間がかかり今さっき全手続きが済んだところだ。
僕らの認識票は白磁等級から茶鉄等級へと書き換えられてある。
緊急案件を手早く処理した事と闇森霊族が実は賞金首だった事、森からの帰路でマリアベルデさんに言われて採取したキケルガという名の植物が上級品級素材だった事で一気に昇格評価となったようだ。
そして、その恩恵で貰った袋には結構な金額のお金が入っている。
「上級品級素材と賞金首や他の素材と緊急依頼分も含めて金貨20枚と合金貨1枚に大銀貨3枚に小銀貨25枚の合計20825ガルドとなった。
今度は買取窓口に移動して巻物を5本鑑定してもらう。
「全部魔法の巻物ですね。効果は【火球】、【炎の壁】、【飛行】、【緊急脱出】、【加重空間】となりますね。効果を聞きますか?」
そう聞かれたが、師匠から貰った呪文書に全部乗ってた魔術なので効果は知っているので断る。
「すべて売却でお願いします」
「畏まりました。少々お待ちください」
そう言いて算盤のようなもので計算していく。
「お待たせいたしました。合計で10800ガルドになりますが内訳は聞きますか?」
程なくしてそう告げられたが、内訳は特に必要ないのでお断りする。
お金を受け取りホクホク顔で皆の元へと戻る。
これに元の軍資金がまだ金貨5枚分ほどあるので、金貨36枚と小銀貨400枚ほどだ。一部を貯蓄に回して装備の更新だろうか?
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「今日は豪華な食事にしようぜ」
「「賛成」」
健司の提案に和花と隼人が同意する。
「マリアベルデさんも一緒にどうですか?」
高額報酬に貢献してくれた彼女にも声をかける。彼女は今夜はこの門前町で宿泊して翌朝には迷宮都市ザルツへと向かうそうで和花に引き留められていたのだ。
「そうですね。一人の食事も味気ないですしご相伴にあずかりますね」
そうにっこりと微笑まれたが、ある意味では貴女が主役ですよとは言うのは野暮か…………。
門前町に地理に明るくないので街中をウロウロしていると蚤の市のような場所に出くわした。この時間はまだ人も多く結構明かりも灯っているので全体的に明るい。
そこで見つけてしまった…………。
「おじさん。その腰袋を2つ買うよ」
その革製に腰袋にはこっちの世界では見かけないチャックが付いており更にキーホルダーまでついていた。
そう、盗まれた僕と和花の魔法の鞄だ。所有者登録をしてあったので当人以外には単なる珍しい腰袋でしかないのである。
おじさんに金貨2枚を渡し腰袋を受け取る。
自分のを装着しチャックを開き中身を確認する。
「うん。問題なし」
そう頷いて待たせてあった皆の元に戻る。
「なんか欲しいものあったのか?」
隼人がそう訪ねてきたので腰袋を見せる。
「あれ? それってこっちに来た時に身に着けてた腰袋か?」
隼人は覚えていたようだ。
「持ち主登録しておいたんで単なるガラクタとして扱われていたよ。師匠も運が良ければ取り返せると言ってたから探してはいたんだ」
「やったな! これで樹が荷物持ちだな」
そんな本気半分、冗談半分な事を言ってきた。いや、そのつもりだけどさぁ。
「はい。和花のだよ」
「ありがとー」
礼を述べ腰袋を受け取った和花は、ウキウキと中身を確認する。
「それでみんなには相談なしで買っちゃったけど————」
そう謝ろうとすると、
「いいって事よ。もちろん俺らの荷物も持ってくれるんだろ?」
健司まで隼人と同じことを言い出す。
「勿論だけど、防犯と緊急時の為に保存食や毛布なんかは各自で持つんだぞ」
師匠にも言われたのだけど、魔法の鞄を手に入れて身軽になると狙ってくれと宣伝してまわる事になるので偽装として普通の背負い袋は用意しておくに越したことはない事と、一党が分断されたときに1か所に備品を集約してしまうと残りの面子は食料も残らないなんてシャレにならない事態を避ける為でもある。
「それはしゃーねーな」
そう健司は言いなぜか皆で笑い出した。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「ふー食った食った」
「あんなに肉食ったのはいつ以来だろうなー」
健司と隼人は腹を擦ってご満悦だ。
言われてみれば肉と言えば燻製肉か干し肉ばかりだったものな。肉々しい夕飯とか確かに久方ぶりだ。二人が浮かれる気分もわかる。
組合に行く前に確保しておいた宿屋までは八半刻ほどかかる。治安も考慮して結構価格のする宿屋だ。門へと続く大通り沿いあるのでノンビリと大通り沿いの店を眺めつつ帰路についていると————。
「樹くん…………あれ」
和花に呼び止められて振りむくとある店舗を指さしている。格子状の大きな窓の奥に幾人かの裸同然の男女が鎖のついた首輪で壁に繋がれている。
「ほら、あの子」
僕が和花の指し示すものが見えてないと判断しもう一度指さす。
「!」
気が付いてしまった。なんでこんなところに…………いや、分かっている。奴隷として売られたんだから居てもおかしくない。
「瑞穂…………」
以前よりかなり痩せ細っているし薄汚れているが間違いない。この世界に拉致られたその夜に滞在中の村人に奴隷として売り払われた筈の桐生瑞穂だ。
財布に手が伸びそうになった。
「みんな…………」
仕方ないなーという顔でみんなが僕を見ている。
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