315話 未知なる孤島-裏③
「あの方向にあるのって妖魔の森よね。事前確認であんなところってあったっけ?」
アリスのいう事前確認とは道中に指揮所裏の海図室にある[神の視点]の立体画像で島の大雑把な地理的特徴などは把握していたのだ……。広大な森があることは分かっていたのだけど、アリスが指し示す場所は、まるで線を引いたかのように明らかに他とは植生の異なる植物が茂る森なのであった。
「でも、周辺調査として軽装で行くような場所には見えないよね……」
アリスはそう言うと少し考えこむ。そして、
「恐らくだけど、【迷いの森】の魔法が掛かっていて奥へと誘い込まれたのかも?」
そのような予想を口にした。
なるほどと思っているとアルマが気になる事を口にする。
「そうなると相手がどれくらいの力量の持ち主かで対応も変わってくるよね」
「どういう事?」
「ん~……術者の力量で効果が変わる術って結構あると思うんだけど、専門家のご意見は?」
そう言ってアルマがアリスに話を振る。
「樹君の予想だと結構昔は誰かしら住んでいたのよね?」
「そうね」
確かそんな話をしていたはずだ。そう考えているとアルマが
「外界と二万年近く隔絶されていて妖魔の森がある事を考えるとやっぱり闇森霊族が住んでいると思うのよね。そう考えると……最低でも上位闇森霊族だと思うから……」
「ん? 最低でも?」
「うん」
アルマが頷くと知識を披露し始める。その内容はというと。
人間を含むほとんどの人型種族は学術的に最上位種、上位種、下位種に分類される。妖精族であれば神代の時代に神々によって妖精界から召喚された所謂本物の妖精族であり、知人でいえば先生の友人であるフェルドさんやバルドがこれに当たる。ほぼ半神と言ってもいい。
上位種とは神代の時代が終わり自力で妖精界に帰還する能力を失った真なる妖精族同士の交配によって誕生した存在であり、この世界でも稀に見かける事がある。下位種はいま一般的に見かける妖精族の事だ。
「――――仮に真なる上位闇森霊族が居たとすると恐らくは森は半妖精界と化していて時間の流れすら違ってしまうわ」
最悪の事態を想像してしまい三人して沈黙してしまう。そこに先ほどまで沈黙していた皇が口を挟んできた。
「樹って持ってるだろ? ここにいる主に誘い込まれたって事はないか?」
「まって。主が居る事で確定なの?」
私は思わずそう叫んでいた。
「いや、確定というか……」
皇は言い淀む。そして無言で先を話すように促すと、「あくまでも憶測だぞ」と前置きして話しだした。
「そもそも[神の視点]って上空から見たリアルタイム画像を立体映像として映すものだろ」
皇はそう言って一旦言葉をきる。
何勿体ぶってるの?
「俺が思うに二万年も見つからない島が突然見つかり、島の見た目と上陸後の地形に食い違いがある。何者かが世界を見ていて標的として樹を誘い込んだ……と考えたんだ」
「それはありそうねぇ……でも、そうなると主の正体は……」
私の脳裏にいくつかの候補が上がる。
「この環境で居そうなのは金属魔人、死を超越せし者あたりかしら?」
いまあげたのは共に魔術師が永遠の思索に耽る時間欲しさに転じた存在だ。片や錬成魔術、片や死霊魔術の奥義である。
「高い知性があるから少なくとも話は通じるわね」
「そうは言うけど……脅されたりしない?」
アルマの意見には同意できるものの力で従わせてくる可能性も十分にある。
「でも、わざわざ招き寄せたって事は、恐らくだけど交渉する必要があると判断したんだと思う」
「ん~どんな事を言ってくるのかしらねぇ……」
「居るか分からない存在の事で思い悩んでても仕方ないよ。それよりも……樹君とかの捜索はどうする?」
脱線していた話題をアリスが軌道修正して元に戻す。
「取りあえず捜索隊は私、アリスに……後はどうしよう?」
【物品探知】が使える私は必須で森の中での活動なら自然崇拝者にして野伏たるアリスは必須だ。
だけど……。
「私らってどちらかというと後衛型だよね。誰か壁役が欲しいよね」
アリスの提案に皇が「俺が着いていくか?」と答えるものの却下する。
「皇もダグさんも大型武器を持った重戦士でしょ。出来れば狭小な場所で戦える軽戦士タイプの人が良いんだけど……」
無いもの強請りなのである。当一党で軽戦士タイプは瑞穂ちゃんだけなんだよねぇ。
「ならシュトルムとセシリーに頼むか」
皇の提案も一理あるなと思っていると――。
「敵襲っ! 全員いますぐ逃げろぉっ!」
拡声器からルワンダ索敵員の叫びが響き渡る。
これはただ事ではないぞと互いに頷きあい一目散に魔導騎士輸送機へと走り出す。
そして襲撃してきたモノが森から飛び出す。その姿は全長3サートを超え、幾つかの節に分かれた細長い身体に前肢が鎌状になっており羽を広げ飛翔している。大きさは兎も角として外観的には水蟷螂に近い。
「長節蟷螂蟲っ!」
知識人のアルマが青い顔をして悲鳴じみた声を上げる。大きいけど強そうには見えないんだけどなぁ……。
だが、こいつが如何に恐ろしいかはすぐに判明した。警護担当で自律稼働中の多脚戦車が排除に動きだした際に獲物と感じたのか
口器から液体を吐き出したのだ。
それは着弾すると金属の装甲をドロドロと溶かしたのである。
人間が浴びたら洒落にならない。
だが数騎の多脚戦車の犠牲のお陰で負傷者もなく魔導騎士輸送機に逃げ込んだのであった。
「俺の[ウル・ラクナ]を出すぞ!」
皇が魔導騎士で迎え撃つようだ。
「一人じゃマズい。俺も出る」
それに続いてシュトルムも操縦槽へと飛び込む。
大丈夫なのだろうか?
ブックマーク、評価などありがとうございます。
忙しすぎて今月は二話しか投稿できなかった……ガックシ。
六月くらいまで過労死レベルで仕事が忙しすぎて更新ペースを守れそうもありません。




