31話 最終試験⑥
2019-06-09 誤字を修正
嫌な予感は的中した。
その空間だけは無用なゴミなどは散乱しておらず整理されていたが予想通り女性冒険者二名の遺体が転がっていた。
どちらも死因は心臓を短剣で一突きである。
抵抗した痕跡がないところを見ると精霊魔法で何かしら精神に働きかけたのではないだろうか? だが殺害動機は何だろうか?
取りあえず認識票だけ回収して周囲を見回す。
「これなんだと思う?」
隼人が指さしたそれは安っぽいテーブルの上に置かれた羊皮紙の束と革紐で閉じられた羊皮紙の巻物だった。
「全部で5本か…………魔法の巻物だったら儲けモノなんだけどね。こっちの羊皮紙の束は————————」
文字が読めなかった。
「公用交易語じゃないって事か…………」
読めれば何か判りそうなものだが…………。
「樹の魔術でなんとかならないのか?」
「一応は第五階梯の魔術に【翻訳】というのがあるんだけど、今の僕や和花の実力だと使った途端に気絶するよ。制御も負荷も大きすぎるんだ」
「そうかー」
僕や和花のように習いたての魔術師見習いは導管と呼ばれる霊的器官が未成熟で一度に大量の万能素子を魔力に変じられないのである。無理をすれば出来なくはないかもしれないが、失敗の確率も高いうえに最悪のケースだと二度と魔術が使えなくなる可能性も出てくる。
この導管と呼ばれる霊的器官は魂に直結しているとかで癒せないのだそうだ。
「翻訳師に依頼するか、そのまま組合に報告書と一緒に出してしまおう」
「それもそうだな。下手に首を突っ込んで巻き込まれたらたまらんな」
隼人はそう言って笑いだす。
「後味の悪い仕事になったけど、この二体の遺体だけ外に運び出そう。マリアベルデさんが居るし蘇生して貰えるかも」
「そうだな」
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「埋葬しましょう。この人たちはもう離魂してしまっています。手遅れです」
戻ってきたマリアベルデさんに助けてもらったお礼を言った後で、洞窟から苦労して運び出した冒険者たちの遺体の蘇生をお願いしたところ————————
残念ながら蘇生不可能だった。すでに魂は現世を離れ輪廻の渦に飲まれたのだという。
ここまで道案内で同行してくれた狩人さんから見回りの結果を聞くと、村で逃した赤肌鬼三匹を個別に遭遇し各個撃破したとの事だ。後は周囲に特別不自然な足跡などはなく洞窟から逃げ出したものは居ないだろうとの事だ。
それを聞いて僕は狩人さんに村に戻って脅威の排除は終わったと告げて欲しいとお願いし先に戻ってもらう。その際に周辺警戒と赤肌鬼討伐してもらったのでお礼に合金貨一枚を握らせる。
一瞬驚いたもののその後鼻歌交じりで村に戻っていった。
「流石に渡しすぎじゃねーの?」
不満タラタラの健司がそう意見を述べる。合金貨一枚=500ガルドだ。僕らの報酬は一党で金貨一枚。すなわち1000ガルドだ。経費で報酬の半額は出しすぎだと言いたいのだろう。
「何か考えのあっての事なのか?」
「金額からすると高いと思うかもしれないけども、村で逃した赤肌鬼三匹と他にも潜んでいるものが居るかもしれない奴を森に不慣れな僕らが全部調べ終わるのにかかる時間を考えたら安いと思ったのさ。それに僕らはまだ軍資金には余裕があるからね」
その説明で納得してくれたようだ。大きくない森とはいえ赤肌鬼とかくれんぼに興じる時間はもったいない。
冒険者たちの埋葬を済ませて僕らは村へと戻ることにした。
因みにこちらの世界での埋葬は、基本的には火葬した後に遺灰を聖水に浸すそうだ。土葬だと屍人や骸骨の素材にされたり、屍食鬼や野生動物が死肉を漁りに来る事もあるらしい。
遺灰を聖水で浸すのは、不浄の灰と呼ばれる不浄の存在の素材にされることもあるためだという。
マリアベルデさんと情報交換をしつつ、こっそり受けていた魔法の水薬の素材回収依頼4つに必要なものを採取しつつダラダラと村へと歩いていく。
「迷宮都市ザルツに所用ですか?」
「うん。ちょっと人探しをね」
今回はたまたま迷宮都市ザルツへと向かう途中で一晩の宿にと思ったこの村に立ち寄ったら、若い冒険者が無謀にも赤肌鬼の巣穴に向かったと聞いて追って来てくれたんだそうだ。
到着したら僕と御子柴が倒れているので急いで奇跡で癒してくれたそうだ。
あらためてお礼を述べ、マリアベルデさんの人探しの話へと変わる。
戦士にして魔術師で至高の芸術品の戦士像のような体躯の黒髪に神秘的な紫水晶のような瞳の大剣使いの偉丈夫との事だが…………。
どこかで見たような? いや、まさかね…………大剣持ってるところとか見たことないしなぁ。でもそれ以外は良く知った人物が一人いるなぁ…………。
和花も同じことを思ったのか『話す?』と目で問いてくる。
「同族の方ですか?」
兄弟なり親類だろうか? 神秘的な紫水晶のようなの瞳はこの世界でも稀有だと師匠から聞いている。
「ううん」
頭をぶんぶんと振って思いっきり否定された。しかし普段は神秘的な美しい聖女様も歳相応に見える。
「…………恋人」
目を伏せ頬を朱色に染めてそう宣った。その表情は美しいと同時に幼いながらも女の表情だった。
こっちの世界だと12歳くらいで恋人とかいるのかぁ…………。
この後和花が喰いついてきて女子トークに花を咲かせ始めて、それについていけなくなった僕は今日の戦闘を振り返っていた。つまり反省である。
一刻ほどで村に戻ると村長宅にまだ明かりがついておりわざわざ出迎えてくれた。それどころか夜食が用意されていたり寝床として納屋が掃除してあったりする。
疲労もあり月明かりが差し込むだけの納屋は暗いのでさっさと寝てしまった。
驚いたことに翌朝は村長宅で朝食をご相伴にあずかり狩人さんが門前町まで荷馬車で送ってくれることになった。
徒歩だと一泊野宿になるから面倒だなと思っていただけに助かった。賃金弾んだ甲斐もあったというものだ。
次で一章終われるかな?無理かな?
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