299話 あらためて互いを知ろう
「改めて互いを知る事は必要だよね」という事で皆が勢ぞろいしたところで和花がそう切り出してきた。
先ずは言い出しっぺである自分たちの事からだろうという事で僕らの事を話し始める。
僕らは別の並行世界の住人であり、この世界の人からすると異邦人と呼ばれる存在である事。
神聖プロレタリア帝国によって強制召喚されたものの運が良いのか悪いのか東方の端っこの島に出現した事。
滞在した村で赤肌鬼の襲撃があり全滅した事。
通りすがりの人に運よく蘇生されたが、その後トラブルがあり多くの仲間が離散していった事。
たまたま仕事で訪れていた師匠に救われ迷宮都市ザルツにて迷宮に潜って暫く生活していた事。
離散した知人などが奴隷堕ちしていたのを買取して師匠の協力の元で帰還させた事。
貴族のつまらない見栄に巻き込まれ仲間を一人失った事。
幸か不幸か運よく第一〇層の階層主である成竜戦で生き残り竜殺しの二つ名を得ることなった事。
東方で婚約者を助けたものその影響で聖都ルーラの戦の神の神殿に大きな被害が発生した事。
同行していた戦の神の神官戦士が自らの信仰を確認するために一党を離脱した事。
中原に移動して未攻略であった虚無の砂漠の遺跡からごっそりとブツを回収して大金持ちになった事。
そこで闇森霊族と知り合った事。
破戒僧となった聖都ルーラの元聖騎士を見殺し同然にした事。
そしてレセップス砂漠の遺跡で皆と出会ったという形で締めくくった。
この世界だと異邦人は稀にだが様々な時代に出現している事もあり、さして驚かれることはなかった。そうは言っても異邦人は総じてそれなりに有能であったり、新しい価値観を生み出したりと所々に名を残していたりする。僕らの年齢で銀等級なのも頷けるなどと感心されてしまった。
次に語りだしたのは斥候のレルンである。
彼は東方のグラーツ王国と呼ばれる既に滅びた国の貧民窟で育ったそうだ。東方には自称七千年の歴史を持つと謳う宗主国とも言うべき赤の帝国という国があり内乱と独立などで長い戦乱が続いており国土は荒廃しており盗賊組合、僕らの感覚で言うところの犯罪者集団が普通に存在していたのである。
一七歳までそこに在籍していたが、隣国に攻め込まれたドサクサに紛れて組合を抜け冒険者として生活していく事になる。特にこれだという事件もなく二度ほど一党を代えて現在まで至ったそうだ。二五歳という年齢的にもそろそろ引退を視野に入れていたという。
ある意味でよくいる典型的な東方民族の冒険者と言った感じである。
次にダグである。彼は南方大陸の中間あたりに位置する熱帯長草草原地帯にあるグラーブ村で生まれ、一五歳の成人の儀で長槍にて獅子を倒し戦士として認められ外の世界を見ることを許された。
暫くは南方で友人たちと冒険者として仕事をしていたという。あっちは今だに妖魔族や魔人族や魔獣が狩り尽くされておらず討伐業務が程ほどあるそうで三年ほど従事していたが一緒に村を出た友人がすべて殉職し半年ほど失意で引き籠っていたものの資金も尽きかけて中原に進出し護衛業務を中心にソロで生計を立てていたという。
そしてたまたま護衛業務で前衛を失ったレルンたちの一党から誘われた際に槍を処分して大鎚矛に持ち替え鎧も硬革鎧から板金軽鎧に変更して今日に至るという。
マーチンさん。いや、もう身内扱いだからアリス呼びかな。彼女は元日本国人でこっちの世界に強制召喚されたのちに死亡し北方民族の自然崇拝者一族の巫女として育つ。狩りの際の事故で前世の記憶が戻ったのだ。前世の名を桔梗有栖という。
その後に神聖プロレタリア帝国の北方統一戦争に巻き込まれ一族皆殺しの憂き目にあう。運よく逃げ込んだ遺跡の【転移門】で逃げ出したものの蠍人たちに捕まり奴隷となってしまったところを僕らが身受ける形となった。
最後はアルマ審議官である。
彼女は人族同士の夫婦の間に生まれた先祖返り、所謂取替え子である。しかも魔眼持ちであった。貧しかったらしい彼女の両親は法の神の神殿に預けたのである。
月日がたち彼女が一五歳の時に両親を探したが行方不明だったそうだ。その後は彼女を囲うドメイン高司教一派が神殿内の不正を徹底的に裁くために四年ほど奔走したそうだ。だが相手は巧妙で断罪するのはどれも末端の人物のみであった。
真面目が取り柄のドメイン高司教一派には政争は向かなかったようで気が付けば水面下でひとりまたひとりと寝返っていたそうだ。
そんな折にアルマ審議官の誘拐が発生し、神殿直属の聖剣持ちの聖戦士団が救出に向かうも全滅し貴重な飛行魔導輸送機や[断罪の聖剣]を失う。
それらの責任を負うという形でドメイン高司教は更迭され結婚適齢期を理由にアルマ審議官も左遷という名目でダナーン要塞王国に飛ばされるという訳である。
「二人は復讐とかそういう感情は沸かないのかい?」
そう言ってダグがアリスとアルマに質問を投げかける。
「ないとは言わないけど、神聖プロレタリア帝国は規模が大きすぎてやる気にならないわ。個人的には死んでいった者たちの分も長生きしたいものね」
アリスはそう言って肩をすくめ、
「歴史を紐解くと政争に明け暮れた聖職者は何れ天罰が下ります。それに……神殿から逃げ出すことがある意味で復讐ですね」
アルマも肩をすくめるのであった。
正直言うと復讐の片棒とか担がされたくはないなというのが僕の本音だ。とはいってもざまぁしてやりたいという気持ちもある。
ザックリ話し終えたし後は今後の打ち合わせかな?
ブクマ増えた!と思ったけど気が付けば減っていた。維持するのは難しい。




