295話 戦果確認
294話の末尾に未削除の部分があり削除しました。
2020-12-17 ルビを修正
ザイドリック級に戻ってきて先ず行った事は、元日本人の桔梗さんことマーチンさんとダグを紹介した事だ。
マーチンさん、身内扱いになったので以後はアリスと呼ぶ事になるが彼女は当初の予定通りに船医の補佐をして貰うことになる。一応念のためという事で冒険者として登録したけど、同伴させるかどうかは未定である。
ダグはこの世界の典型的な重戦士かと思ったのだが、それは以前いた一党の役割の関係であの配置だったようだ。
動きが微妙だなと思っていたのだが、本来は槍の使い手なのである。南方民族は獅子を倒して初めて一人前の戦士として扱われるそうでダグも長槍で獅子を仕留めて戦士として認められて冒険者として旅立つことを部族で認められたのだとか。
あとはあんな出来事があったのにケロッとしているピナの事である。妙にやる気が上がり翌日からの戦闘訓練にも参加しだす。さらに新たな奇跡を賜ったらしく成人したら冒険者になりたいなどと言い出す。
もうすぐ11歳になるのだが気が早いのではないだろうか?
いや、こっちの子は10歳から丁稚などで働き始めるからこんなもんなのだろうか?
師匠とバルドさんは僕らの技量と戦闘スタイルから最適な装備を作るぞって事であれこれと議論している。まぁ~あの二人が僕らに同伴した理由はそれなのだからね。
ハーンは砂漠戦用の[アル・ラゴーン・レセップス]の使用報告書を書き始めている。あれも仕事だ。
中原勢にとって南方はあまり価値がないと聞いていたけど南方への侵攻でも考えているのだろうか?
そして僕らと言えば戦利品の確認である。
無数の装身具と大量の書物が今回の戦利品である。長年の研究などで効率化されており一万年前の魔術が必ずしも現在の魔術より優れているとは限らないのだが、遺失魔術は大変価値がある。
それに師匠から渡されている呪文書は結構歯抜けで段階を追って追記しているのである。
書物の大半は研究書であって呪文書の数はそこまではなかったのだが、それでも150冊ほどはあった。
「これ、全部読むの?」
居間に積み上げた呪文書を眺めて和花がげんなりしている。
ここから魔術分野別に選り分けていく事になる。僕らはそれぞれコレだという部門を優先して勉強している。例えば僕は付与魔術だし和花は創成魔術だ。瑞穂は拡大魔術だったりする。
僕が専攻している付与魔術は魔像を生成したり魔法の工芸品を作り出す魔術だ。この魔術はかなりの情報が失われており非常に遣り甲斐がある。自分専用の魔法の工芸品とか憧れるよね。
和花が専攻している創成魔術は生物や物質を創造、また物質の在りようを変化させる魔術だ。彼女はその中でも物質の在りようを変化させる錬成魔術に注力を置いている。精霊使いなのでてっきり八大精霊をはじめとする精霊力を操る魔術である八大魔術なのかと思ったのだが、和花曰く精霊を学術的に見てしまうと精霊との交信に不都合なのだとか。
僕が精霊使いの素養があると言われるものの一向に目が出ないのはそれが原因ではないかと言われている。
瑞穂の専攻している拡大魔術は
身体能力の強化・弱体化や超能力的な効果の魔術だ。【転移】もここに含まれる。
因みにようやく生活魔術が使えるようになった健司はまだ味噌っかすなので今回は除外だ。
「数も多いしさっさと仕分けしよう」
僕はそう言って居間に居座る面々に解散を告げて書物の仕分けに入る。
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十字路都市テントスに戻って来てから幾日か経過し秋の後月の半ばとなった。
書物の仕分けの結果だけど遺失魔術と呼ばれるものがいくつか見つかった。特にロマンあふれるのが【高周波振動】だ。そう、刃物が高周波ブレードと化すのだ!
ただ……僕らが使うにはちょっと難易度高かったんだよねぇ……。頑張って第七階梯の魔術が使えるように修行しよう。
だが一番の収穫は通信魔術と呼ばれる通信系の魔術がいくつか見つかった事だろう。実はこの通信魔術って師匠の意向で教えてもらえなかったんだよね。
特に有用性の高いのが第六階梯の【戦術念話】の魔術だ。
この魔術は術者を中心に半径25サートの味方と双方向の意志の疎通が半刻の間だけ可能となる。対象のとなる味方の人数は術者の魔力強度に依存するので試してみない事には分らないが師匠の話であれば10人くらいはいけるんじゃないかとの事だ。
もっとも問題点もある。
それは脳への負荷だ。呪的資源換算すると凡そ第六階梯の魔術三回分に相当する。
一応解決策はある。今回の呪文書の中に錬金魔術の第四階梯の魔術に【簡易的な魔法の水薬作成】があったのだ。これで創れる魔法の水薬に鎮静の水薬と呼ばれるものがある。判りやすく言えばMP回復薬だ。
どれほどの回復効果があるかは造り手に依存するので和花に期待するとしよう。
その後は冒険者組合へと赴き、銀等級への引き上げ処理と説明を受けた。
これに関しては師匠が居なければ無理な仕事内容だったので実力で勝ち得たとは言えないんだよねぇ……。
17歳にして銀等級はほぼ例がなく以後は他の冒険者に発破をかけるべく名前を使わせてもらうなどと冒険者組合から通達があった。そして団体拠点と団体の事務要員を用意する事を言い渡される。
悪い点が一つ。
二十代後半にもなって銅等級に上がれない冒険者らが憎悪にも似た嫉妬を溜めてしまった事だろうか。
出来るだけ近寄らない様にしよう。
さて、団体要員で必要なのは、団体全体の運用スケジュールの管理や業務交渉を担当する業務管理師、団体全体の税金などの金銭管理を担当する経理師、団体メンバーと連絡を取る通信魔術師である通信師、依頼者や各種情報の裏どりなど担当する密偵が最低でも必要になってくる。
密偵にはダグの同僚であったレルンを採用する事になった。本人も年齢的に冒険者として活動する事に疑問を感じていた様ですんなり受け入れてもらった。問題は他の職だ。
今年一杯までに申請してくれと言われたので宿題としよう。
次に魔導機器組合関連の未処理の依頼だ。ザイドリック級の運用試験は次の目的地で完了できそうだと思っている。魔導騎士の運用試験はまだ途中だ。どの騎体も動くことまでは分かっている。ただドサクサに紛れてもう一騎追加されていた。
[アル・ラゴーン・シルディア]と呼ばれる操縦槽が完全密閉型の水中行動が可能らしい騎体だ。騎体名があるので販売されている筈なのだけど実戦を行って問題点を洗い出して欲しいのだろう。
うん。ハーンに任せよう。
取りあえずハーンを呼びつけて試験騎の試験を一任する旨を伝える。快く引き受けるかと思ったのだが、一つ条件を提示してきた。一応立場的に強権を発動して従わせても良いのだけど今後の関係を思えば聞いておくかと思ったのである。
「俺、実は夢があって……。自分の騎体を作りたいんすよ」
そう語る彼の話を纏めると外装板だけ交換したような似非特注騎ではなく、部品から厳選して一から組み上げた騎体を作り出し魔導機器技術者として名を馳せたいというのだ。
なかなかに浪漫ある話だなぁ……。
「わかった。承認するよ。ただし、僕の分も用意して欲しい」
やっぱり自分専用騎とか欲しいよねって事でこちらの要求もしておく。ハーンには予算を見積もってくるように言っておく。
そう言えばそろそろ時空の亀裂が塞がって次元の移動は困難になるって話だったなぁ。日本帝国軍が集団誘拐の復讐に来るという話はどうなったんだろうか?
来ないに越したことはないのだけど気になるなぁ……。
そんな事を考えていると女中ちゃんの一人が僕に来客が来ていると告げたのである。
誰だろうなと思いつつ来客を出迎えに開閉扉へ赴くと、数日前に神殿で別れたアルマリアさんであった。
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