292話 岩柱の遺跡-最後の戦い
残り二人まで減り、あとはお互いが脱出すればといったところで奇声をあげて聖剣を振り上げた聖戦士殿が踏む込んでくる。
僕らは岩柱の端に陣取っている。もしかして避けたらこいつ落ちるんじゃないだろうか?
流石に聖剣を賜る聖戦士殿が転落死とか可哀そうかと思ったのだけど……。
「土小人よ。やつを躓かせろ!【転倒】」
アドリアンの方は非情であった。タイミングよく走り込んでくる聖戦士の足元の地面が隆起し、それに足を取られた聖戦士殿は派手に転び、僕らの横を宙を泳ぐように横切りそのまま砂漠へとダイブしていった。
横切った際にチラリと見たけど驚愕の表情で通過する聖戦士殿は以前冒険者組合で斬りかかってきた狂犬殿に間違いない。そうなるとあの娘はやっぱり法の神の聖女たる審議官って事か……。
「残りはどうする?」
何事もなかったかのようにアドリアンが訊ねてくる。まだ手負いの聖戦士二名が残っているが、彼らも事態の変化についていけないのか固まっている。
確かに傍から見ると上司が奇声を上げて走り出し投身自殺に見えなくもない。そりゃ彼らも困るよね。
「助けようにも手段がないよ。彼らをここまで連れてきた連中に拾ってもらえるように祈るくらいかな?」
僕の呪的資源は打止めだかし、精霊魔法に都合の良い魔法はない。
「そうだな。それよりお前もとっとと降りろよ。【落下制御】の有効時間も有限だろ?」
確かにアドリアンが指摘するように効果時間は気にしなければならない。だが、なんか忘れてないか?
そう言えば、【封扉】を破るには真語魔術の使い手である必要があり、あの聖戦士達にを破れるとは思えないのだけど……。
「僕は後はダイブするだけだし、先にアドリアンが脱出しなよ」
僕の思案はアドリアンの台詞によって途切れた。
「まさか結晶柱が発動しないなんて事があるわけないだろ。だがどうしてもというなら先に行ってやってもいいぞ」
「そうしてくれ。僕が落ち着かない」
そんなやり取りをしつつ時間は経過していく。
「結晶よ。転移――」
「――、発動。【魔力暴走】」
アドリアンの命令語に被せるように何処からともなく略式魔術が発動する。
「うぉっ!」
アドリアンの結晶柱が閃光を放ち砕け散る。
魔法の工芸品を暴走させる【魔力暴走】の魔術があったか! 四百とか五百と言われている魔術のすべてを把握するとか無理ゲーだよ。
ここの主がこれまで大人しかったこともあり完全に頭からすっぽ抜けてた。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい――
いま飛び降りても落下中の無防備なところを攻撃される。【落下制御】の有効時間もあと残りわずかだ。
最大の問題はどちらの対策を取っているかだが、考える時間も惜しいのでひと当てしよう。鯉口を切り【八間】で一気に間合いをつめると抜刀する。
ガキンッ
硬い手応えが僕の右手に伝わった。超人的な【八間】踏込みの加速からの抜刀に繋げる奥義【一閃】による斬撃は主の身体に触れる事無く手前で止まっていた。
この手応えは間違いなく【力場障壁】だ。やはりこちらを魔術の使えない蛮人と判断したのだろう。魔術の効果で物理攻撃をほぼ無効化されている。虚無の砂漠で失ったあの片手半剣がないので開放も使えない。
だが、【力場障壁】を張ったという事は魔法などを防ぐ【魔法障壁】は併用できない筈だ。
今の攻撃でアドリアンが気が付いてくれれば勝機がないでもない。
「どけ! 戦乙女よ! 貴様の投槍を放て! 【戦乙女の投槍】」
その言葉で僕の立ち位置が射線上にあると判断して右側に跳び退る。その直後に光輝く投槍が通り過ぎ魔術師に突き刺さり血飛沫が舞う。
思ったほど効果が低い? 抵抗されたのか。
「蛮族の魔法などこの程度のモノか……。では、私が本当の力と言うものを見せてやろう」
ニヤリと笑みを浮かべ下位古代語でそう言うと呪句の詠唱を始めた。物理攻撃がほぼ無効なので余裕綽々である。
無駄な足掻きと知りつつ打刀を振るう。しかし障壁に阻まれてしまう。考えがまとまらない。何かないのか……。
「綴る、創成、第九階梯、攻の位、魔力、圧縮、凝縮、強化、加速、貫通、致死、呪詛、解放、発動。【死の光線】」
詠唱の完了と共に集約される魔力が解き放たれ死を運ぶ光線となり僕とアドリアンを飲み込んでいった。
「――おい、生きているか」
横で転がっている弱弱しいアドリアンの声で目が覚めた。どうやら気を失っていたようだ。それにしても身体が鉛のように重いし全身を襲う痛みで気が遠くなりそうだ。どれくらい意識が飛んでいたかは不明だけど、和花のかけた【落下制御】の効果は切れているようだ。
「生きてるみたいだね」
「奥の手を使って脱出をする。一度でいいから無理にでも魔術が使えるか?」
「使えばほぼ間違いなく気絶するね」
「それでも使えるんだな?」
念を押してきた。一番怖いのは発動前に意識が飛ぶことだ。それを懸念しているのだろう。
「あぁ。使える」
「それなら僅かでもいいからアイツの魔術をなんとかしてくれ」
割とアバウトな指示だった。僕は意識が飛びそうな状態で頭をフル回転させ考えた。
……あるじゃん。
主は余裕があるのか余裕の笑みを浮かべ【軽癒】の魔術を発動させている。恐らく彼には僕らの会話は聞こえていない。または聞こえていても意味を理解出来ない筈だ。
「いけそうか?」
「略式魔術だからいつでもいける」
「なら頼む」
以前和花が行った対魔術師対策を僕も真似したのだ。
後は僕がアドリアンを信じ切れるかだな……。
大丈夫。もし僕を見捨ててひとり逃げ出しても下にはみんなが居る。損得勘定で動く彼なら満身創痍の状態でそんなリスクは犯さないだろう。
行くぞ!
「発動。【万能素子消失】」
略式魔術で【万能素子消失】を発動させる。その効果により周囲の万能素子が急激に喪失する。そして僕の意識は闇へと沈みこむ。最後に映ったのは驚愕の表情の主の姿だ。
ざまーみろ。
ブックマーク登録ありがとうございました。
次話に関しては書きかけですが、どうしても片付けないければならない尻拭い業務があるので週末までには投稿したい、なぁ……。




