288話 岩柱の遺跡-下部構造編⑤
動力となる魔力が断たれたことで明かりなどが消えたのだが、程なくしてやや薄暗いが明かりが灯る。恐らくは万能素子濃縮収容器に切り替わったのではないだろうか。うちの魔導騎士輸送機にも搭載されていた。
さて、暗くなる前になんかバキンという音が聞こえたけど……。
「これは見事に金具が壊れているね」
ケーブルの接続部が見事に壊れていた。とてもではないが僕らでは修理は無理だろうから放置するしかないけど問題は――。
「来た」
いち早く敵の存在を嗅ぎつけた瑞穂が指し示す方を見れば漆黒の全身タイツのようなものを身に纏い、小剣を持つ集団がこちらを目指して走ってくる。
そう言えば、この大きな室内の調査はしていなかったなぁ……と後悔する。
連中は移動式舷梯を登って来るしか上甲板にくる方法はないのだが、問題の移動式舷梯は二カ所ある。
僕は瞬時に考えを纏め指示を出す。
「健司は瑞穂とあっちの移動式舷梯で迎撃、ダグは僕とこっちで迎撃する。オジサンらは機械式弩で下の奴らを迎撃して。和花は適宜サポート任せた!」
指示に従い健司と瑞穂は離れた箇所にある移動式舷梯へと走っていく。オジサンズは高杉三等陸尉の指示で二手に分かれて機械式弩を準備している。和花は世界樹の長杖を構えているが基本的には呪的資源を温存してもらう予定だ。
相手は恐らく戦闘訓練を受けさせた戦闘用の人造人間だろうか? 体格はあの時代の人族を基準に見ると細身で小柄ではある。故に物理的な耐久度は高くないと判断した。そして取りあえずダグの実力を見るいい機会かな。
移動式舷梯を駆け上がってきた最初の標的に対してダグが大鎚矛を振り下ろす。重量系武器は初動が遅く攻撃軌道が単調で避けられやすい。予想通り戦闘員はその一撃を難なく避けるとお返しとばかりに一歩踏み込み小剣を突きこむ。その一撃をダグは板金鎧の表面で滑らせて回避する。どうやら基本的な防御技術は持っているようだ。
バランスを崩したたらを踏む戦闘員に対してダグは右の肘鉄砲を食らわせる。位置関係が良くなく命中したのは戦闘員の右肩であったが僅かに動きが止まる。
そこへ僕は右足を一歩踏み込み鯉口を切り打刀を一閃する。その一撃は状態逸らし気味に避けようとする戦闘員を左逆袈裟気味に深く切り裂いた。全身タイツのような防具は思ったほど防刃性能は良くないようだ。
その瞬間、僕の勘が告げたのだ。こいつはヤバイと。
殆ど反射的に一歩踏み出す勢いで左足で前蹴りを行い死にかけの戦闘員を蹴り飛ばす。戦闘員は力なく移動式舷梯を転がり落ちていく。そして後ろから移動式舷梯を駆け上がってくる別の戦闘員にぶつかった瞬間に爆発四散したのだ。
「みんな! こいつらは殺さず下に落とせ!」
次の犠牲者が出る前に僕は急いでみんなに指示を出す。嫌なモノを見させられた。
爆発の条件はなんだ?
戦闘能力の喪失か?
それとも生命活動の停止か?
試してみるしかないか。
新たに登ってきた戦闘員の一人にダグの大振りの一撃が綺麗に頭部に入りグシャリと嫌な音を立てる。そのまま大鎚矛を振りぬくと戦闘員は落ちていき爆発四散した。だがその大振りの合間を縫ってもう一人の戦闘員が小剣を腰だめに突っ込んでくる。大きく振りぬき無防備な体勢のダグに身体ごと突っ込む気だ。
僕は【疾脚】でスルリと一気に間合いをつめるとそのまま打刀を突き出す。打刀は易々と戦闘員の身体を貫く。
突き刺さった打刀を抜くために前蹴りしつつ引き抜く。落ちていく戦闘員は落下途中で爆発四散した。どうやら生命活動が停止したら僅かなタイムラグの後に爆発するようだ。
まだまだ戦闘員はいる。見えているだけで40人はいる。体力が持つだろうか?
オジサンズの機械式弩は威力が高すぎて戦闘員の肉体を易々と貫通してしまい当たり所によっては出血を無視してそのまま走ってくるのである。あいつら痛覚がないのか苦にもしないのだ。寧ろ出血死されると爆発のタイミングが読みにくくなるので攻撃させない方が良さそうですらある。
そう指示を出そうかと思ったのだけど、それを察したのか高杉三等陸尉指示のもと狙いを変更したのだ。彼らは狙いを頭部に変更した。それに伴って命中率も落ちたが予期せぬ爆発だけは避けられそうだ。
後は僕らの体力が尽きる前に処理が終わるかだなぁ。出来れば和花の呪的資源はこんなところで使いたくない。
自爆攻撃に戦々恐々としつつ二限が経過した。最後の戦闘員にダグの大鎚矛が叩き込まれその勢いで戦闘員は落ちていく。
「終わった、な……」
ダグは緊張を解くと一気に疲れが押し寄せてきたようで座り込んでしまった。僕はといわば周囲を経過しつつ増援が来る前にここを出る事を考える。ゲームなら経験値ウマーなんだけどねぇ……。
「みんな。疲れているところ悪いけど増援が来る前にここを出よう」
どういう訳か師匠が降りてこない。
上で何かあったのでは?
そう思いつつもあの師匠が苦戦する姿とか想像できないんだよなぁ。
移動式舷梯を降り昇降機へと歩いていくと――
「遅かった」
昇降機まであと5サートほどまでに来た時先頭を走るがボソッと呟く。それと同時にまるで【転移】してきたかのように戦闘員らが出現し僕らへと走ってくる。その数は三人だ。
彼らの装備も最初の戦闘員とは違い三日月刀である。また、左腕には刃留めも装備している。
運の悪い事に昇降機は上の階層に上がっている。先に処理してしまわないとマズい。
僕の視線が下に向かって降りてくる昇降機へとわずかに移った瞬間にぬるりと戦闘員が懐に飛び込んできた。
こいつは歩法を体得している。【疾脚】と同じ事が出来るのか踏む込む瞬間が読めない。
だけど、それを読まなければ勝負にならない。伊達に師匠相手に対人戦の訓練は受けていない!
不意打ちに近い形の一撃を無詠唱の【瞬き移動】の効果で短距離転移を行い躱すとお返しとばかりと斬撃を繰り出す。
人外の反応速度で左腕を掲げて斬撃を逸らそうとするが刃留めごと左腕を斬り飛ばす。戦闘員は左腕を犠牲にして僅かな間のうちに間合いを取る。
技術があり身体的能力も高い相手とか対戦するには嫌すぎる……。ストレスで禿げあがりそうだ。
止血もせずに間合いをつめてきた戦闘員の一撃を【刀撥】によって受流しし平衝を崩した瞬間を狙って斬り上げ――
うそーん。
切り裂く瞬間、驚異的な能力で飛び上がり避けたのであった。
だが、その代償は大きいようで膝がガクガクと震えている。限界を超えた能力に身体の方が追い付いていないのだろう。
これまで終始無言であった戦闘員が気勢を発して三日月刀を振り上げ飛び込んでくる。その一撃を【飃眼】による見切りでギリギリで避け横をすり抜ける際に打刀を一閃すると【八間】にて一気に次の標的へと間合いをつめる。
僕はその時、相手の戦闘能力を過小評価していた。間合いをつめた瞬間足元から突然短槍が突き出されたのだ。
精霊魔法の【影潜伏】か!
新たな敵の存在に対して一瞬だが判断を迷ってしまった。もう【飃眼】による見切りは不意打ちには対しては弱い。
肉体に大きな負荷がかかるが【残身】で避けるか、呪的資源を使って【瞬き移動】か【防護圏】でやり過ごすかという判断だ。
「戦乙女よ。貴様の投槍を投じろ! 【戦乙女の投槍】
昇降機側から光輝く投槍が飛来し影から身を乗り出す四人目の短槍持つ戦闘員を串刺しした。
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なんとかあと二週間で次の舞台に移したいけど間に合うかな?




