287話 岩柱の遺跡-下部構造編④
「樹くん、ちょっといい?」
下層へと行く昇降機を前に僕を呼び止めたのは和花だ。
皆には待つように言って和花の話を聞く事とする。
「あの娘って樹くんの知り合いなの?」
え、この急いでる時にそれを聞いちゃう? そうは思ったけど表情には出さずに僕はこう答えた。
「そのはずなんだけど……なんか記憶と一致しないというか……」
かなりの美人さんで恐らく一度見たら忘れないだろうとは思うのだけどねぇ。どこでどう知り合ったのかという話を簡単に和花に説明すると彼女はこういったのだ。
「それって低位の魔法の工芸品の誤認の護符とかの影響じゃないの?」
なんでも政治的に替えの利かない人材などの誘拐防止の為に身につけさせ売事があるらしい。
「でも、法の神の聖女で審議官だったならここに来ている集団は法の神の聖戦士団って事になるのかな?」
「そうだとするとあいつらは融通聞かなさそうだからなぁ……」
ちょっと声かけただけで剣を抜いて斬りかかってくる様な狂犬集団じゃん……。関わりたくないなぁ。回想していてウンザリしていると話は終わりとばかりに和花は昇降機へと歩いていた。
あれ? 聞きたい話ってそれだけ……。終わってからでも良かったんじゃ……。
慌てて和花を追いかける。
気を取り直していざ下へと行こうと昇降機に乗り込むと重量超過で昇降機が動かなかった。
「俺は後から行くんで先に進んでいろ」
師匠がそう言うとさっさと降りてしまった。強力な【認識阻害】の効果であっても重量感知からは逃れられなかった。
ひとつ勉強になった。
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「ここは……」
昇降機からおりた場所は明らかに【空間拡張】の魔術によって拡張された場所であった。何せ直径37.5サートほどの岩柱の中に2250年に再建された国立競技場がすっぽり入ってもまだ余裕がある大きさがあるのだ。明かりが数カ所あるが巨大な室内を完全に照らすには心許ない。
そんな部屋の中央部に激しく自己主張している存在は艶消しのダークグレーで塗装された巨大な金属の塊であった。上から圧し潰したような円筒形、先端部が潜水艦を模わせる丸みを帯びた形状をしておりており目測だが全長は87.5サート、全幅15サート、上甲板までが7.5サートほどだろうか。 現在の位置からだと判りにくいが中央やや後方に艦橋らしきものが見える。
この世界でここまで大きい構造物は初めてではないだろうか? 僕らが試験運用しているザイドリック級の倍以上もある。
「回転翼推進器がありませんが、外観はどうみても潜水艦ですな」
最初に口を開いたのは高杉三等陸尉であった。
「確かに大きさに違いがありますが、熱核戦争時に現存していた露帝の弾道ミサイル原潜に似ておりますな」
それに続いたのは黒瀬陸曹長だ。正直僕も同じ感想を抱いた。でもこんな所に潜水艦なんてあってもなぁ……。
巨大な【転移門】があるわけでもないし、なぜここにあるのだろうか?
「おい、あの糸みたいのはなんだ?」
後ろに居たダグに言われて気が付いたけど、糸? そう思ったのは一瞬であった。よくよく考えれば船体サイズに騙されているが、恐らくはかなりの極太のケーブルではないかと思う。それが上甲板から天井まで伸びている。
「取りあえず上甲板に上がってみようか」
皆にそう告げ移動式舷梯を駆け上がる。
中央前部にあると予想した|潜水艦発射弾道ミサイル《SLBM》サイロの開閉扉はなかった。まずは一安心。ただその箇所に長さ17.5サートほどの巨大な両開き扉が存在する。
問題のケーブルは艦橋の後ろから伸びていた。
「これは太すぎだわ…………」
糸と表現したダグであったが現物を見て認識を改めたようだ。それはそうだろう。直径20サルトもあるのである。
「これって……」
「――うん」
和花と瑞穂は何か分かったようだ。そしてそれは僕もであった。
「これって万能素子転換炉で作った万能素子をこの研究所に供給している動力炉代わりなんじゃないかな?」
「なるほどねぇ……言われてみると……確かにそんな気がするな」
健司が目を細めてそう口にするが目を細めても魔力は見えないぞ。
わかった人間と分からなかった人間の大きな違いは魔術の習熟度だ。最近使えるようになった健司にはまだ知覚できないのだ。
万能素子転換炉で変換された魔力はケーブルを感じているだけなんだけどね。
「なら抜いてみるか?」
そう言うとダグはケーブルを抱え込み引っ張り始める。それに釣られてオジサンズもケーブルを抱えて引き抜きにかかる。
「それじゃ、俺もっと」
そして健司も参戦し程なくするとバキンという音と共にケーブルが引き抜かれる。
そして真っ暗になる。
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登録はしていないけどアプリなどで見ている方も含めて、よくぞなろう界の地中に埋もれた当作を見つけたもんだと……。
ありがたい事です。




