284話 岩柱の遺跡-下部構造編①
「師匠。彼女ってもしかして神人族ですか?」
「そうだな」
神人族となると師匠やメフィリアさんと同族となる。だが、師匠はかつて神人族の隠れ里に赴いた事があるとの事だがこの娘は知らないという。
神人族はほぼ絶滅種と言っていい状態でアルカンスフィア大陸にただ一つ存在する隠れ里に二百人も居ないそうだ。彼女は先祖返りのはぐれ神人族ではないかとの事である。
さて、このまま寝られてても困るし起こすしかないか。と思ったけども僕らの魔力強度ではここの主の魔力強度を上回り魔術を解除出来る可能性は数日単位の長時間の儀式でも組まなければ難しいだろう。
「師匠……」
一応師匠の顔色を窺い無言でお強請りしてみる。こちらの意図を察したのか師匠が溜息をつくとこう口にした。
「解呪はいいが、その後の面倒は見れるんだよな?」
あ、待った。起こした後どうしよう……。
「身元が判れば送りますし、分からなければ成人するまでうちで女中見習いでもさせるとかですかね?」
ところが師匠の質問の意図は違ったのである。
「そうじゃない。【仮死】は解除後は暫くは激しい倦怠感でまともに活動は出来ない。お前はこのまま帰るって事でいいのか?」
あ、それは知らなかった。第八階梯の魔術なんてまださらっと読んだ程度でそこまでは把握してなかったなぁ。
彼女を起こすにしても寝かせたままにしても先に進むのは厳しいという事か……。
指名依頼の品は手に入れたし帰るか、彼女をここに置いて先に進むか……。でも本来の目的はリハビリを兼ねてこの研究所の探索だった筈なんだよなぁ……。
そう考えると置いていく?
よし!
「師匠、あの娘は下の面子に預かって貰いましょう」
僕はこう考えた。
【落下制御】の魔術で彼女を下ろす。あのメフィリアさんの事だから勝手に保護してくれるだろう。
そうと決めたんで行動しよう。取りあえず箱庭の主が戻ってきても困るので外に出るか。
都合よく利用した感があり罪悪感もあったので箱庭を出る際にチラリと師匠の表情からは何を考えているのかは伺い知れなかった。
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念のために一筆したためた紙を握らせ【落下制御】の魔術でゆっくり降下していく箱庭で確保した少女を見送りつつ思わずボヤいてしまう。
改めて思ったのだけど、あの娘……。どこかで見たことあるんだよね。どこでって……。
確証は持てなかったのだけど法の神の聖女様に似ていたんだけど、特徴的な虹彩宝珠症の確認が取れなかっただけに確証がね……。
でも、そう考えると先行者が金属鎧の集団ってあたりと飛行魔導輸送機を用いた組織の規模から可能性は高いの、かな……。
面倒ごとがやってくるのは物語の主人公だけにして欲しい。
「それにしても疲れた……」
今日はかなりの魔術を使ったので精神的疲労している。恐らくだが本日は魔術はあと一回か二回で打ち止めだろう。
こういう時にステータスとか分かればいいよねぇ……。
とにかく雑多な魔術などは健司や瑞穂に任せようと思う。
その時であった。
立ち眩みのような感覚が襲う。よく見れば周囲の情景が歪んでいる? それは僕だけではなく全員感じたようで訝しんでいる。
その答えは師匠が答えてくれた。
「いまのは時空の揺らぎだ。この岩柱はまたどこかの次元に跳ぶぞ」
うへぇ……。帰れフラグかな? 取りあえず残り時間を聞いてみよう。
「あとどれくらいでです?」
「揺らぎの具合から早ければ二刻、遅くても半日後ってところか?」
師匠の答えは予想外に短い時間であった。諦めて帰ろうかと思っていると、「時間がないんだから早く行こうよ!」と珍しく和花が声を張り上げると僕の手を取る。
地下五層程度なら駆け足で行けば間に合うかな? それに先行している集団がある程度地ならししているだろうしね。
「みんな急ごう」
和花の一言で気が変わった僕は一階の昇降機広場に待機させたままの石の従者へと意識を飛ばす。
まだ、【従僕制御】の魔術の効果が切れていないようなので昇降機で地下一階へと行かせる。
程なくして地下一階に到着し扉が開く。
【視野共有】の魔術の効果により昇降機広場が僕の脳裏に映る。
そこは一面、血の海であった。
40畳ほどの広さ広場には原形を留めない程にバラバラになった数名分の死体が転がっていた。飛び散った装備品から金属鎧、恐らくは板金鎧かな? どうやったらそのような無残な死体となるのだろうか?
酷い光景だが【視野共有】越しの光景のせいか酷く現実感がない。
もう少し観察しようと思ったのだが突然視界が切り替わった。
「あ、【視野共有】の魔術が切れた」
さて、地下一階を無視するか否か? どうしよ……。
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